2020年度 中小企業・小規模事業者が支えるポストコロナ社会へ向けて「国への要望書」
2020年07月28日 ティグレ連合会
Ⅰ.はじめに~新型コロナウイルスによる被害~
2019年12月に中国湖北省武漢で集団発生した新型コロナウイルスによる感染症は瞬く間に全世界へと広がりました。WHOのデータによると世界の感染者数は1,150万人、死者数53万人を超え、(いずれも2020年7月7日現在)我が国においても感染者数19,981人、死者数978人(厚生労働省:同日)となっており、極めて甚大な被害状況にあると言わざるを得ません。さらに深刻なのは経済への影響です。倒産や廃業が起これば当然失業が発生します。1%の失業率増加で2,000~3,000人の自殺者が出ると言われています。コロナ禍において人々が恐怖と欠乏から解放され、尊厳ある生命を全うできるような社会づくりがまさにこの日本で直面する緊急課題となっております。私たちティグレの会員からも「今、すぐに何とかしてほしい」、「今日は乗り切れるが明日が不安」という声が日々あがっており、そのような現状を早急に伝えるとともに中長期にわたる政策の実施を要望します。
この度の新型コロナウイルス感染症の対応のため行政庁で働かれている方々のご尽力に感謝するとともに、長期戦も予想されております。皆様の体調管理が十分に行われる中で日々の業務に取り組まれることを要望いたします。
Ⅱ.ポストコロナ社会と中小企業・小規模事業者の果たす役割
① 今回のパンデミックは人体への感染症による健康被害だけでなく社会経済システムに与えた影響も大きいものがありました。
② マスク着用とソーシャルディスタンスなどの日常生活のあり方をはじめ、会社、働き方、教育、文化、スポーツなどなどあらゆる分野でそのあり方が変化し問われました。
③ 国際的にはグローバルからローカルへ、また、サプライチェーンのあり方が問われ、バランスが求められました。
④ 「命(自粛)」か「経済(自粛解除)」かではなく「命を守る経済」へ、つまり経済活動の目的を従来の「利益・利潤」のみにおくのではなく「一人も切り捨てない」ことを目的にすべきです。新たな社会経済活動の在り方が問われており、ここに中小企業・小規模事業者の役割が求められています。
⑤ 中小企業・小規模事業者が担ってきた、ものづくりや地域経済の担い手の原点へ立ち返り、これを育て、支援する国の政策こそが求められています。そして、厳しいコロナ禍にあって倒産、自主廃業を選択せざるを得ない者もあり、これら事業所の事業主と解雇された従業員の生存権を守るセーフティーネット、事業をリスタートしやすい環境の整備が国の政策として求められています。
Ⅲ.以上のことから、まず新型コロナウイルス対策関連につき以下のとおり
要望します。
1.消費税の一時凍結を求めます。
2.包括的な金融支援策として以下項目に関して早急な対処を求めます。
① 無利子無担保制度のさらなる拡充を求めます。
② 審査の迅速化、基準の緩和、手続きの簡素化を求めます。
③ 既往債務の元金返済の凍結、返済条件の緩和、条件変更手続きの簡素化と迅速化を求めます。
④ アフターコロナの金融政策を明確にするため、2013年3月で失効している金融円滑化法の再法制化を求めます。その際、債務者区分で過当な不利益を抑止するために早期改善計画・経営改善計画・経営計画等の有無や履行状況を斟酌する旨条文への加筆を求めます。
⑤ 中小企業、小規模事業者への「永久劣後ローン」の実現を求めます。
3.助成金・給付金・補助金について
① 士業等の専門家専用窓口の設置(専門的な質問に対応)を求めます。
② 新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金の上限額が4月1日以降、
8,330円から15,000円に引上げられました。しかし前会計年度にあたる2月27日から3月31日分までは8,330円のまま据え置かれています。制度の趣旨から4月1日以降と前で区別する根拠もなく、上限額を2月27日に遡って15,000円に引上げ、差額請求できるよう求めます。
③ 持続化給付金について下記項目に関して早急な対処を求めます。
1)各種要件の緩和を求めます。
2)対象事業者(一時預かり駐車場収入の不動産所得者等)の拡大を求めます。
3)高齢事業者等情報弱者への制度周知の徹底と活用支援強化を求めます。
④ 雇用調整助成金について支給申請から受給までの期間短縮と要件緩和の恒久化を行い、特例措置期間のさらなる延長を求めます。
⑤ デジタル化投資の遅れにより中小企業・小規模事業者におけるテレワーク(在宅勤務等)が十分に機能せず、生産活動が急速に減速しました。将来を見据え、「社内システムの構築」、「リモートワーク推進」、「テレワーク導入」等のための新たな補助金の創設とIT化に向けた現制度「IT導入補助金」等の大幅な要件緩和と拡充を求めます。
⑥ 「感染症対策設備導入補助金」・「業種転換支援補助金」の創設を求めます。
4.世帯単位ではなく個人単位の政策への転換を求めます。
特別定額給付金の方法に見られるように、従来からの世帯主主義が色濃く残っており、女性活躍や個人の時代と言われながら、不十分なままになっております。世帯主主義を見直すことを求めます。非同居のDV被害者への対応など一定の改善は行われていますが、個人単位を原則とした給付や支援の充実を図ることを強く求めます。
5.本年4月30日、出入国在留管理庁は、新型コロナウイルスの影響で解雇、雇い止め、自宅待機等になった外国人に対して、在留資格を柔軟に扱う旨の通知を出していますが、更なる周知の徹底を求めます。
6.生活困窮者自立支援制度の拡充を求めます。
小規模事業者は今回のような大きな環境変化の影響を直接に受けます。小規模事業者に対するセーフティーネットはまだまだ不十分であり、生活保護の手前で自立を支援するセーフティーネットの拡充を求めます。
7.休業補償共済制度の創設を求めます。
今回の新型コロナウイルス感染防止に伴う休業などの事態に対応するため安い掛け金で半年~1年程度の休業に対応できる補償制度の創設を求めます。
8.中小企業・小規模事業者向けBCPである「事業継続力強化計画」につき策定が広まるよう周知を図るとともに、計画実施のための資金の融資など策定事業者へのメリットの拡充を求めます。
9.国民の健康と安全を確保するため、PCR検査の拡充と医療体制の強化を求めます。
10.正確な情報開示と人権問題への対応について下記項目を強く求めます。
① 新型コロナウイルス感染症に起因する風評被害や不当な差別、偏見、イジメ等の人権問題を未然に防ぐため国民への正確な情報の開示を求めます。
② DV等の人権問題が起きた場合の積極的な相談対応と被害の救済活動を求めます。
11.全国の商工会や認定支援機関ならびに各団体との協力体制の構築を求めます。
12.マイナンバーによるプッシュ型給付が行えるよう改善を求めます。
マイナンバー制度については、国民の多くはメリットを感じていません。年金や社会保障とリンクしないからです。また、マイナンバー制度に対し「不正利用による被害」や「情報漏洩によるプライバシーの侵害」を心配しています。しっかりとしたプライバシーの保護が必要です。さらに、今回のコロナ対策では、地方自治体の住民基本台帳ともリンクしない問題が浮かび上がりました。今の状態では、納税者番号があればマイナンバーは不要と言われても仕方がないのではないでしょうか。たとえば、今回、全国民に給付された定額給付金が、マイナンバーによってスピードアップされていれば評価は変わったと思われます。緊急時にプッシュ型の給付がマイナンバーでできるよう改善を求めます。
Ⅳ.一般重要項目について
13.納税者権利憲章の制定と全員確定申告制の実現を求めます。
わが国の申告納税制度は、納税者が税法に基づいて自分で税額を計算した申告書を税務署に提出することで納税義務を確定させます。国民の納税義務の円滑な履行及び税務行政の適正な執行が必要であり、納税者の協力が不可欠です。そのためには「法に定められた諸権利」が尊重されたうえで税務行政が行われなければなりません。主権者たる納税者の権利保障と税務行政の公正な執行のために「納税者権利憲章」の早急な制定を求めます。そして年末調整制度によって申告権を奪われている給与所得者に「納税者主権」の立場から概算経費率と実額経費控除の選択制の確定申告権を認めるよう強く求めるものです。納税を実感することは民主主義の原点であり、「納税者意識」を喚起するためにも全員確定申告制の実現を強く求めます。また、同様の観点から「応能負担の原則」や「生活費非課税の原則」など国民の諸権利を守り、現行の個人事業主に対する不公平を是正するために「青色申告控除」の拡大や課税最低限の引き上げを求めます。
14.納税環境の整備(税務調査における事前通知の改善)を求めます。
平成23年に国税通則法が改正され、「税務調査を開始する時の事前通知」と「処分の理由付記」が義務付けされましたが、納税者への「事前通知」は口頭とされています。そのため、現場では問題が起こりやすくなっています。「文書」での事前通知と無予告の税務調査において「事前通知」を行わなかった理由開示を強く求めます。
15.所得税は令和2年より基礎控除の適用に所得上限が設けられることになりました。憲法25条は「健康で文化的な最低限の生活を営む権利」を保障しています。この観点からしても、日本におけるすべての人は「最低生活費」を超えた所得部分に対してのみ課税されるべきであり、人的控除の適用に(納税者本人の)所得制限を設けるべきではなく、見直しを強く求めます。所得税は、本来、個人の支払能力に応じて負担する公平性を重視した税です。「配偶者控除の収入制限の廃止」など、所得の再分配機能の役割を果たすためにも生活費非課税の原則へ向け、人的控除の大幅な拡大を求めます。また現行の証券優遇税制を改め総合課税化を進めることを求めます。
16.消費税について中小企業・小規模事業者の事務負担の増大を招いている「複数税率の見直し」、税の逆進性解消に向け「税率の引き下げ」ならびに免税事業者を市場から締め出す「インボイス制度(適格請求書等保存方式)の廃止・見送り」など中小企業、特に小規模事業者にとって経営や事業を圧迫しない消費税制度への全面見直しを強く求めます。
17.小規模事業者にとって年末調整を含む税の徴収義務にかかる事務負担の軽減と従業員各自の意思による年末調整と確定申告の選択制度の導入を求めます。
18.事業承継制度の「各種届出の簡素化」と「恒久化」を求めます。
中小企業庁によると、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者数は、2025年までに約245万人となり、約半数の127万人(日本企業全体の約3分の1)が後継者未定の状況になることが予測されています。平成30年度の税制改正において10年間の特例措置がとられていますが、「後継者は役員就任から3年以上経過」等々の各種諸条件が問題となるケースが出てきています。事業承継を円滑に進めるには「各種届出の簡素化」と「制度の恒久化」などさらなる制度の改善が必要です。とりわけ平成31年度の税制改正から個人版事業承継がスタートしていますが、青色申告(正規の簿記原則によるものに限る)という、厳しい条件が設定されています。事業承継はまったなしです。個人事業主に対する適用条件の緩和を強く求めます。
19.中小企業・小規模事業者に負担が重くのしかかる雇用政策「働き方改革」に伴う小規模事業者等への急激な負担増加の軽減を強く求めます。
政府が推進している働き方改革は小規模事業者等とそこで働く従業員に大きな不安を与えています。新型コロナウイルスの影響を受けている小規模事業者等にとって、働き方改革に伴う労働基準法の改定(時間外労働の上限規制、年次有給休暇の義務化)及びパートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金)の施行を遵守することは極めて困難な環境下であります。大手企業は労働時間の削減や有給休暇取得率のアップによっておこる経費負担の増加を下請企業へ転嫁(優越的地位の乱用)するのではないかと危惧しています。今まで、常に大手企業の収益悪化の緩衝材役を担ってきた小規模事業者等にとって働き方改革を実施するためには、小規模事業者等の立場に立った下請法の再整備、改正が不可欠であると考えます。わが国経済の活力源として小規模事業者等がこれ以上、疲弊し減少しないような中小企業・小規模事業者とそこで働く従業員のための雇用政策の実現を求めます。
20.小規模事業者等に係る社会保険制度について下記項目を求めます。
① 新型コロナウイルスの影響により売上が減少した中小企業、小規模事業者の社会保険料の免除を求めます。
② 2013年以降、建設業を中心に社会保険未加入事業者への対策が進められてきましたが、小規模事業者等にとって人件費の約15%におよぶ社会保険料の負担は厳しく、加入したくても加入できない現状があります。また、今国会で成立した「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」では被用者保険適用拡大など事業主にとって極めて大きな負担が新たにかかろうとしています。対象事業者の加入促進と事業の存続を両立するため事業主の社会保険料の負担が軽減される新たな制度の創設を求めます。
③ 社会保険料の決定方法は、定時改定(算定基礎届)は、4月、5月、6月の報酬で1年間の保険料が決定され、随時決定(月額変更届)は固定的賃金等の改定月から3ヵ月平均で標準報酬月額が改定されています。定時決定の算定期間が、4月、5月、6月のみの平均であることから、公平に標準報酬月額が決定されているとは言えません。また随時改定の仕組みも分かりにくく、専門知識のない中小企業や小規模事業者はこの制度に則った処理ができません。定時改定及び随時改定は年間平均で標準報酬が決定できますが、まだまだ要件が厳しく手続するうえで現実的ではありません。よって定時決定及び随時決定を廃止し、原則年間平均で標準報酬が決定されるような、公平かつ利用しやすい簡素な制度への見直しを求めます。
21.誰もが加入して安心できる労災制度への改定(創設)を求めます。
ネットで仕事を請け負うギグワークの拡大を背景に、政府の全世代型社会保障検討会議はフリーランスが労災保険に加入できるようにするとの方向を打ち出しました。これを受け、厚生労働省では一人親方労災制度の拡大を検討すると報じられています。小規模事業者等のセーフティーネットの中で労災制度は重要です。規模が小さくなればなるほど未加入率が高く、今日における小規模事業者等の重要な課題となっています。ギグワーカーだけではなく、家族経営でも入れる特別加入制度、小規模事業者等を取り残さない労災特別加入制度への改定(創設)を求めます。
22.健康保険証等交付の迅速化をはじめ各種手続きの簡素化を求めます。
23.雇用保険と切り離した「休業給付」制度の実施を求めます。
新型コロナの影響による不況が長期化することが予測され、失業保険の給付日数が新法案の給付により差し引かれることも懸念されます。よって、企業に在籍している期間の休業給付と失業した後の失業手当とは切り離して休業給付を行う制度として非正規労働者も含め実施されるよう求めます。
24.65歳までの高年齢雇用継続給付廃止の撤回を求めます。
令和3年4月に高年齢者雇用安定法改正の施行が今国会で可決成立し、65歳以降70歳までの就業確保措置を企業に求める努力義務規定が追加されました。これに伴い、現在の雇用保険制度により60歳から65歳まで継続雇用されている高年齢者に支給されている高年齢雇用継続給付を令和7年度から段階的に縮小し、65歳から70歳までの継続雇用者への給付に移行することとなりました。65歳までの継続雇用者への高年齢雇用継続給付が廃止されると、その減少分は賃金として事業主が負担し、労働者は更なる労働力の提供をすることになるのは明白であり、これは中小企業・小規模事業者、労働者の両者にとって大きな負担と不安の増加になります。もともと老齢年金の支給開始年齢を60歳から65歳へ引き上げたのに伴い、事業主に65歳までの雇用継続を求め、その期間の事業主の負担を軽減するために高年齢雇用継続給付を支給することとした経過からして65歳まで継続雇用が定着したとの理由で事業主、労働者両者の負担が増加する改正の撤回を求めます。
25.退職後の傷病手当金と老齢年金との併給調整の廃止を求めます。
26.外国人技能実習制度の改善を求めます。
外国人技能実習制度は技能実習計画に基づき、主に職場内の実習訓練を行うことになっています。しかし本来、技能の習得は職場内に限定されるものではなく、社外での訓練にも拡充されるべきです。職場外教育訓練への拡充、多言語に対応した在職者訓練(ハロートレーニング)の拡充と教育訓練経費を助成する雇用関係助成金の創設を求めます。
27.日本で資格を取得した外国人美容師が働ける特区の年内実現を求めます。
外国人留学生が日本で美容師資格を取得しても国内で就労できないことが問題になっています。日本で働きながら学んだ、高度な技術や「おもてなし」を含む優れた日本文化、商材や機材を含む美容関連産業を、母国をはじめ世界において、クールジャパンとして発信してもらう。また、日本の優れた公衆衛生観念をアジアはじめ世界に広げることは、確かな国際貢献に繋がるものといえます。3月の国家戦略特区諮問会議で、特区をもうけて外国人美容師が働けるようにする方針が出されました。この方針に基づき、年内に特区が実現するよう求めます。
28.中小企業・小規模事業者が行う各種申請手続き費用について国庫が負担とすることを求めます。
29.中小企業・小規模事業者振興条例制定の促進を求めます。
新型コロナ感染症対策では地方自治体による多様な対策が打ち出されました。小規模企業振興基本法では、国の基本計画に基づいて、地方自治体が地域に根差した小規模事業者の振興策を打ち出すことになっています。地方自治体はさらに中小企業・小規模事業者振興基本条例等を制定し、多様な支援策を打ち出すことができます。国はこのような流れをいっそう促進し、地方自治体での中小企業・小規模事業者振興条例制定を促進するとともに、多様な支援策を後押しするよう求めます。
30.遺品整理に関する法的整備の早急な実現を求めます。
31.本年7月に発生した九州・中国地方における豪雨災害への緊急支援を求めます。
本年7月に発生した九州地方ならびに中国地方における豪雨災害により死者行方不明者が多数に及び、家屋や事業所の倒壊などの被害も発生しています。政府はこれら被害に対し、緊急かつ迅速な生活支援に取り組むよう強く求めます。
また、これらの災害により、直接の被災地に限らず、多くの中小企業・小規模事業者が直接間接に被害や影響を受けています。それぞれの中小企業・小規模事業者の経営実態に応じ、緊急融資をはじめとする経営支援に取り組むよう求めます。