2021年度 中小企業・小規模事業者の存続と発展を目指して 「国への要望書」

2021年07月12日 ティグレ連合会

目次

Ⅰ.はじめに

 私共、ティグレ連合会は中小企業・小規模事業者の「いのちとくらしを守る」ことを使命とし、全国で3万者余りの中小企業・小規模事業者を組織している事業者団体です。
 先に菅義偉総理大臣が述べた「国民の命と暮らしを守る」は、まさに我々が50年近くにわたって掲げてきた使命と合致するところです。
 この間、そのことを柱に政策が実施されてきたことは十分に承知しております。雇用調整助成金(緊急雇用安定助成金含む)申請手続きの簡素化、条件緩和、支給率に至っては100%の支給と当初、我々が要請した水準を上回る施策の実施がおこなわれ、持続化給付金、時短営業協力金や家賃補助支援金、一時・月次支援金等々、今までに経験したことのない様々な支援策の実施が行われてきました。これらにより大企業から中小企業・小規模事業者とそこで働く従業員やその家族など多くの人々が苦しいながらもなんとか暮らしていける状況が維持されてきたと感じています。
 しかしながら感染拡大から1年半が過ぎ、多くの事業者は経営体力を失いつつあるのが現状です。そこで次の課題であるアフター(ウィズ)コロナの対策が非常に重要になってくると考えます。今後に向けた「安心と希望のための総合経済対策」の思い切った実施で、今までの支援策では十分に行き届かなかった人々への「安心と希望」に繋がります。この新型コロナウイルス感染症拡大による未曾有の危機を日本にいるすべての人々が手を取り合って乗り越えるため、さらに大規模な総合経済対策の実施を強く求めます。
 昨今、中小企業・小規模事業者が日本経済の足かせとなっているかのような論調が一部にありますが、中小企業・小規模事業者こそが日本の雇用の70%を担い、新たな産業を創出してきた日本経済の牽引役であります。中小企業・小規模事業者を淘汰するのではなく、デジタル化や生産効率の向上に向けた支援を行うべきです。
 今日の日本社会において格差は拡がるばかりです。このままではグローバル化という名のもとに日本の固有の価値観が急速に失われてしまいます。一握りの人々が富を成す政策からライン型資本主義を基軸とした格差の少ない安定した経済政策への回帰が必要です。戦後日本の成長を支えたのはライン型資本主義であり、バブル経済崩壊後の経済の停滞をアングロサクソン型資本主義により克服しようとしましたが、デフレからの脱却ができずにいます。グローバル化を進めつつ日本特有の習慣や文化を活かした政策へ方針転換することを求めます。

Ⅱ.コロナ対策に関する緊急要望

1.納税の猶予の特例(特例猶予)の再実施を求めます。

 令和2年4月30日の新型コロナ税特法の成立、施行により創設された「納税の猶予の特例(特例猶予)」は、申請期限である令和3年2月1日をもって終了しました。しかし、コロナ禍は続いており経済状況が厳しい中、再度の実施を求めます。

2.消費税の一時凍結を求めます。
 周知のとおりコロナ禍で中小企業・小規模事業者は、非常に苦しい状況にあります。新型コロナ感染症が終息するまで、中小企業・小規模事業者への消費税の一時凍結や税率引き下げを強く求めます。

3.雇用調整助成金の「新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例」の延長と概算払制度の導入を求めます。
 令和2年4月からの「特例措置」は、新型コロナ感染症の影響を受ける中小企業・小規模事業者の雇用維持に大いに役立ってきました。しかし終息がいまだ見込めない中、今後もその影響は続いていくことが懸念されます。現行の制度では事業者は一旦、休業補償を負担せねばならず助成金を受けとるまで早くても2ヵ月程度を要します。経営体力が厳しくなってきた事業者にとって資金繰りに与える影響は大きなものがあります。概算での申請で支払いを行う制度への転換を求めます。

4.休業支援金制度の期間延長と周知徹底を求めます。
 労働者本人が行える「休業支援金」の対象期間が令和3年7月までとなっていますが、新型コロナ感染症の影響は、長期にわたって続くことが懸念されるため必要に応じた延長を求めます。また、制度の周知が不十分であり、早急に周知活動を徹底的に行うとともにさかのぼっての支給など柔軟な対応を求めます。

5.労災で入院する場合に必要なPCR検査について労災保険の一律適用を求めます。
 労災事故で病院に入院する際、病院はPCR検査を求めますが、医療機関によってPCR検査を労災保険適用とする場合と全額自己負担とする場合が見受けられます。全国の医療機関が労災事故でPCR検査を受ける場合は、全て労災保険の適用とするよう指導の徹底を求めます。

6.売上が減少した中小企業、小規模事業者の社会保険料の事業主負担の免除・減額を求めます。
 新型コロナ感染症の影響が広く長期化するなか、経営状況が悪化し雇用調整助成金等を受給した中小企業・小規模事業者で経営状況が一定以上悪化した事業者に対し、社会保険料の事業主負担を免除・軽減するなどの施策を求めます。

7.「コロナ特別貸付」および「コロナ特別保証制度」の延長を求めます。
 今後、新型コロナ感染症による影響の長期化などにより追加資金の調達が必要となる局面も想定されるため、迅速に資金を調達することができる貸付制度・保証制度として当面延長することを求めます。

8.新型コロナウイルス感染症の影響により借入れた資金の返済について柔軟な対応と借入金の減免などの制度の創設を求めます。
 政府系金融機関における「新型コロナウイルス感染症特別貸付」などは、中小企業・小規模事業者の経営の継続に大いに役立っています。しかし、1年半を経過し終息がいまだに見通せない中、今夏より借入金の返済がはじまる事業者が増加します。新型コロナ感染症の影響を受けている事業者には、返済の猶予や資本性劣後ローンへの転換、借入金の減額、免除などの対応と制度の創設を求めます。

9.全国における感染症対策備品設置支援金の創設を求めます。
 感染拡大予防策として大阪府は感染症対策備品設置支援金制度を実施していますが、対象地域、対象先、対象備品が限定的であることから対象地域を全国に広げ、対象先を保育園や一般の店舗等にも広げ、対象備品を抗菌・抗ウイルス塗装や空調設備などに拡大することで、より早く、より安全な環境の整備を支援する制度の創設を求めます。
 今後のアフター(ウィズ)コロナ対策に求められる前を向いた政策だと思います。

10.外国人技能実習生の転職に対して柔軟に対応することを求めます。
 新型コロナ感染症が長期化し収束が見通せない中、多くの事業者が経営の危機に瀕しています。実習生の受入事業所でも廃業を余儀なくされることがあり、実習生が他の事業所へ転職を希望しても職種等が合わないため人材の活用がかないませ ん。一定の条件下で職種の変更が可能となるよう制度の変更や柔軟な対応を求めます。

11.廃業等に追い込まれた事業者の再スタートを支援する総合的な施策の強化を求めます。
 新型コロナ感染症は、社会活動や産業構造に大きな変革をもたらしました。様々な支援策で経営を維持している事業者の中にも、今後やむなく廃業を余儀なくされる事業者の増加が予想されます。過去の経歴にとらわれすぎることのない仕組みを構築し、再スタートが可能となる支援策の実施を求めます。

Ⅲ.通常政策に関する要望

納税制度に関する要望

 納税は国民の義務であり、国民が生活する国を維持するために必要なことであります。しかしながら国民が税に関する充分な理解のもと納税に積極的な意識がなければ国は財源を失います。そのことを常に念頭に置きながら考えていく必要があると思います。
 現在のコロナ禍において大多数の国民は苦境にたっており、国は厳しい財政状況の中、国民への支援と財源確保に苦しんでいることは承知しています。しかしながらそのような中でも国民の格差は拡がっていると言われており、今こそ、所得の再分配機能を回復するための税制が求められています。
 持たざる者・弱き者が社会で公平に生活できるために、富める者・強き者が応能負担することが重要であると考えます。

12.納税者権利憲章の制定を求めます。
 わが国の申告納税制度は、納税者が税法に基づいて自分で税額を算出した申告書を税務署に提出することで納税義務を確定させることであり、税務行政の適正な執行とともに納税者の協力が不可欠です。そのためには「法に定められた納税者の権利」が尊重されたうえで税務行政が行われなければなりません。主権者たる納税者の権利保障と税務行政の適正な執行のために「納税者権利憲章」の早急な制定を求めます。
 その制定においては納税者の権利を守るために次の3点を盛り込むことを強く求めます。
1)主権者たる納税者を善良なる者として取り扱われるものであること
2)納税者が自己について国が保有している情報の開示を求める権利があること
3)独立した第三者機関での公正な権利救済がなされること

13.納税環境の整備(税務調査における事前通知の改善)を求めます。
 平成23年に国税通則法が改正され、「税務調査を開始する時の事前通知」と「処分の理由付記」が義務付けされましたが、納税者への「事前通知」は口頭とされています。納税者にとって口頭通知は突然であり心の準備も出来ていない状況です。調査経験の有無にかかわらず、口頭だけでの通知では十分に理解することが困難なことから「文書」での事前通知の徹底と無予告時の税務調査において「事前通知」を行わなかった理由の開示が常に行われることを求めます。

14.所得税の所得再分配機能を強化させる税制を求めます。
1)累進課税を強化すること
2)分離課税制度を廃止し総合課税へ一本化すること
3)居住用財産など生活関連資産の譲渡等への柔軟な対応を行うこと
4)人的控除の拡大により課税最低限を引上げること
 国民の所得格差は拡がるばかりです。勤労所得は減っている中、金融・証券等資産運用による所得は増加していると言われており、更なる格差を生み出しています。よって累進課税制度の強化と分離課税制度の廃止を行い、原則通り総合課税とするよう求めます。ただし、居住用財産などの生活関連資産の譲渡等は柔軟な対応を求めます。
 憲法25条は「健康で文化的な最低限の生活を営む権利」を保障しています。納税者一個人にとって所得税法では基礎控除の48万円が課税最低限となっています。人ひとりがこの金額で生活することが不可能であることは自明の理であります。
 生活保護制度による生活扶助基準額は、地方郡等の68歳単身世帯で月額66,300円、年額は795,600円であり、併せて家賃や医療費扶助があります。課税最低限は生活扶助基準額よりも大幅に少ない額であり、「最低生活費」を確保できるように課税最低限を引き上げるべきです。また、各家庭において自助の方法として配偶者の収入は欠かせません。配偶者控除の収入金額制限は家計の収入を得るための大きな障害となっておりその廃止を求めます。

15.中小企業・小規模事業者向けの所得拡大促進税制の拡充を求めます。
 令和3年度の改正により所得拡大税制は、対象が継続雇用者給与等支給額から雇用者給与等支給額に拡大され利用しやすくなったところですが、税額控除は10%の上乗せ部分を除けば支給増加金額の15%に据え置かれたままとなっております。国税庁の平成29年度会社標本調査によれば、資本金1,000万円以下の中小法人約232万社の65%は欠損となっており、厳しい財政状況から従業員の給与を増額したとしても税額控除を受けることはできません。
 また、個人事業主の場合、必要経費である給与支給額を増額するということは自身の所得が減るということになります。現状の制度では事業者の大部分は制度の適用(恩恵)を受けられず、個人事業者は身を削るしかないことになります。欠損法人や個人事業主には助成金などによる救済や適用対象者には税額控除割合の拡大を求めます。

16.年末調整制度の廃止と全員確定申告制度を求めます。
 年末調整制度は、事業者が従業員の納税について計算や納税作業を代行しておこなうため給与所得者は税制度への関心や理解が薄くなりがちです。納税者が、自らの納税について理解することは不可欠です。徴収コストの問題はありますが、それよりも重要な納税への意識づけと政治への関心を高めるためにも年末調整制度を廃止し、「全員」確定申告制度の導入を強く求めます。

17.消費税の廃止もしくは消費税率の引き下げを求めます。
 消費税は「預り金」の性格を持った税と一般に説明されています。また、令和5年から導入される「インボイス制度」は、消費税の「預り金」としての性格をより明確にした制度です。
 しかし中小企業・小規模事業者は、消費税を「預り金」として理解していません。きちんと転嫁ができていないため自己が負担しているという思いが強いのです。多くの事業者にとって消費税は、「所得に対する二重課税」との認識であります。
 転嫁できていない消費税は、民間取引の公正な経済活動に悪影響を与えているということであり、これは税制度の在り方として問題であり、納税者や事業者が理解しやすい制度とは言えません。このような現状の消費税制度について廃止もしくは税率の引き下げを求めます。

18.インボイス制度導入の凍結を強く求めます。
 インボイス制度は、預り金としての性格をより明確にした制度です。しかし、中小企業・小規模事業者が、消費税を正しく転嫁できない状況では、免税事業者が取引先に値引きを求められたり、取引から排除されるような事態が予想されます。これも、消費税が民間取引の経済活動に悪影響をあたえるものであり大きな問題です。このような欠陥のあるインボイス制度の凍結を強く求めます。

19.インボイス制度導入時の小規模事業者への実質税負担の回避及び事務負担軽減の法的整備を強く求めます。
 インボイス制度導入の凍結を求めているところですが、導入された場合には、複雑化する会計処理などによる事業者の事務負担を軽減するため、適格請求書等を全国で様式を統一し、AIなどを活用したスキャンや自動読み取りなど事務の簡素化につながる様、法的な整備を求めます。

20.事業承継税制の「適用条件の緩和」、「各種届出の簡素化」と「恒久化」を求めます。
 中小企業庁によると、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者数は、2025年までに約245万人となり、約半数の127万人(日本企業全体の約3分の1)が後継者未定の状況になることが予測されています。
 平成30年度の税制改正において10年間の特例措置がとられていますが、「後継者は役員就任から3年以上経過」等の諸条件が問題となるケースが出てきています。
 国税庁の平成29年度会社標本調査によると、法人数269万社の内、約96.3%が同族会社であり、多くの法人は役員に就任していなくとも後継者が経営を補佐しているのが現状です。
 また、平成31年度の税制改正によりスタートした個人版事業承継は、正規の簿記の原則での青色申告によるものに限るという厳しい条件が設定されています。さらには法人版のような担保提供についてのみなし充足規定がなく、土地等の事業用資産を担保提供した場合には金融機関からの借入に影響する可能性があるなど、利用しやすいとは言い難いのが現実です。
 さらに、事業承継を円滑に進めるには「各種届出の簡素化」と「制度の恒久化」などさらなる制度の改善が必要です。
 例えば、納税猶予後の継続届出・年次報告の提出について、当初5年間毎年の提出が求められています。税務署ならびに都道府県に同様の書類を何度も提出することが求められており、一度でも遅れると猶予が取り消され多額の延滞金がかかります。税務署・都道府県が情報を共有するなど制度の簡素化が可能です。
 また、特例措置期間を10年間としていることについては、期間中に集中して事業承継を進めるためとの意図も推察されますが、この限定された期間だけで後継者問題が解決するものでもありません。
 わが国の経済を支えているのは、中小企業・小規模事業者です。円滑な事業承継による経営の持続のため、「適用条件の緩和」、「各種届出の簡素化」と「制度の恒久化」を重ねて求めます。

労働と社会保険制度に関する要望

 「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」、「育児や介護との両立など、働く人のニーズの多様化」により「働き方改革」が進められています。重要性は理解するところですが、「多様な働き方」を進める中で派遣や契約社員が増加し、コロナ禍でそれらの人々が困窮に瀕している状況があります。
 また、「高度プロフェッショナル制度」や「裁量労働制」も定額で働かせ放題の雇用や「ジョブ型雇用」は労働者の使い捨てにつながる懸念があります。
 社会全体で「人を大切にする」ことを基本とし、すべての働く人たちが十分な収入を得、継続して働くことができ、人材を育てる仕組みにすべきです。そのためには、中小企業・小規模事業者の経営が安定していなければなりません。労働者を守るためにも「働き方改革」の推進において、事業主の観点からの支援策も検討するよう求めます。

21.「同一労働同一賃金の実施」、「最低賃金の引上げ」は、中小企業・小規模事業者の実態に配慮した政策を求めます。

 政府が推進している 「働き方改革」は、小規模事業者等とそこで働く従業員に大きな不安を与えています。新型コロナ感染症の影響を受けている小規模事業者等にとって、働き方改革に伴う労働基準法の改定(時間外労働の上限規制、年次有給休暇の義務化)及びパートタイム・有期雇用労働法(同一労働・同一賃金)の施行を遵守することは極めて困難な環境下であります。もちろん「最低賃金の引き上げ」は理解するところではありますが、多くの小規模事業者等にとっては一律に対応できないのが現実です。「中小企業憲章」でも明記されているように小規模事業者等に対しては助成金など必要な支援策を求めます。

22.国民健康保険料の低所得者への負担軽減を求めます。
 国民健康保険の加入者は、高齢者や自営業者、農業従事者など低所得者層が多く、低所得者に負担が大きい構造になっています。多くの自治体は保険料を「所得に対する賦課(所得割)」、「加入者一人あたりの賦課(均等割)」、「世帯あたりの賦課(平等割)」の合計としています。協会けんぽが加入人数に関係なく、介護保険を合わせて12.09%(半分は事業主負担)であるのに対し、所得が年300万円程度で4人家族の世帯の国民健康保険料は20%前後の保険料となる市町村が多くあります。このような保険料は低所得者には負担できるものではなく、滞納を余儀なくされ国保財政を悪化させるという悪循環におちいり、市町村の財政を一層圧迫しております。根本的には高齢者などの医療費を抑制するなどの施策が必要ですが、高所得者に対する保険料の上限額を引き上げるなど低所得者の負担が軽減される制度への見直しを求めます。

23.協会けんぽの中小企業・小規模事業者への事業主負担の軽減を求めます。
 社会保険料の事業主負担は人件費の約15%と事業者にとって厳しいものです。また、今後予定されている社会保険の加入対象者の拡大は、事業者にとって非常な負担の増大につながるものと懸念しています。平均報酬月額の上限を引き上げるなど全体的な保険料の見直しを求めます。

24.労働保険、社会保険料の決定を暦年による年間平均額とし、公平で簡素な制度にすることを求めます。
 社会保険料の定時決定(算定基礎届)は、4〜6月の報酬で1年間の保険料が決定され、随時改訂(月額変更届)は固定的賃金等の改訂月から3ヵ月平均で標準報酬月額が改定されています。定時決定の算定期間が、4〜6月のみの平均であることから、公平に標準報酬月額が決定されているとは言えません。
 また、労働保険は4月から翌年3月となっており、給与の年末調整は1月から12月で計算します。これらの計算期間の違いが事業者にとって二重三重の事務負担となっています。すべての手続きが同一期間で処理できるよう省庁を越えた効率的な制度への改正を求めます。

25.労働保険、社会保険の算定基準から「実額支給の通勤交通費」を除くことを求めます。
 多くの企業が労働者に対して支給している通勤交通費は実額であり、労働者の収入となるものではありません。したがって実額に対しての保険料の賦課は容認出来ません。給与所得者に対する源泉所得税の計算でも交通費は非課税であります。早期の見直しを求めます。

26.令和4年10月以降、社会保険の短時間労働者への適用拡大に対し、中小企業への適用緩和と保険料補助制度の創設を求めます。
 平成28年10月から短時間労働者に対して健康保険・厚生年金被保険者に適用拡大される制度が始まっています。これが令和4年10月以降からは常時100人超、令和6年10月以降からは常時50人超の中小企業まで範囲を拡大する予定となっています。また勤務期間も現在1年以上から2ヵ月を超えて使用見込みの労働者が対象となり、大幅な期間短縮がなされるものとなっています。
 体力のない中小企業にとって、急激な社会保険料負担の増加は耐えきれるものではありません。ついては令和4年では規模要件を300人超と勤務期間は6ヵ月超などの要件の緩和を求めます。加えて、特に従業員が100人以下の中小企業に対しては、短時間労働者への適用を推進した場合などに長期的な補助制度の創設を求めます。

27.一人親方及び特定作業従事者の業種にこだわらない第2種特別加入者の適用範囲の拡大を求めます。
 令和2年12月に厚生労働省の労働政策審議会でギグワーカー等のフリーランスで働く人の増加を背景に第2種特別加入適用範囲が了承され、令和3年4月より一部の業種に第2種特別加入の業種が拡大されました。しかし、一人親方として柔道整復師、特定作業従事者として芸能従事者やアニメーション制作作業従事者が追加されるにとどまっています。
 労災事故はそれまで得られた収入が完全に断たれたり、低額な収入しか得られなくなる可能性があります。小規模事業者のセーフティネットの充実を図る意味でも、製造業等への危険な業種への早急な適用とすべての業種への適用拡大を求めます。

28.健康保険証交付の迅速化を求めます。
 現在、健康保険厚生年金資格取得届及び扶養異動届を提出してから健康保険証の交付に2週間程度かかり、この間、医療機関で受診した場合、医療費を一旦全額負担しなければなりません。年金事務所の窓口で健康保険資格証明書を受け取ることができますが、直接年金事務所へ行かなければなりません。これでは電子申請が進んでいきません。年金事務所の事務負担削減のためにも、申請時に番号が自動付与されスマホ等が保険証がわりになるなどの早期デジタル化を求めます。

29.中小企業・小規模事業者に対し、高年齢雇用継続給付を60歳から70歳まで支給することを求めます。
 令和3年4月に高年齢者雇用安定法改正が施行され、65歳以降70歳までの就業確保措置を企業に求める努力義務規定が追加されました。これに伴い、現在の雇用保険制度により60歳から65歳まで継続雇用されている高年齢者に支給されている高年齢雇用継続給付を令和7年度から段階的に縮小されることになっています。65歳までの継続雇用者への高年齢雇用継続給付金が廃止されると、その減少分は賃金として事業主の負担となり、労働強化につながる恐れもあります。これは中小企業・小規模事業者、労働者の両者にとって大きな負担と不安の増加になります。もともと老齢年金の支給開始年齢を60歳から65歳へ引き上げたのに伴い、事業主に65歳までの雇用継続を求め、その期間の事業主の負担を軽減するために高年齢雇用継続給付を支給することとした経過からして、65歳まで継続雇用が定着したとの理由で事業主、労働者両者の負担が増加することを認めることはできません。

30.退職後の傷病手当金と老齢年金との併給調整の廃止を求めます。
 退職後の傷病手当金と老齢年金は「所得補償」の名目で併給調整されています。しかし、傷病手当金は健康保険で支給されており、老齢年金は厚生年金から支給されます。各保険料はそれぞれ加入者が負担していたもので、給付事由も「老齢」と「傷病」と異なる「保険契約」により支給されるものであり、「所得補償」という理由はあてはまりません。さらに、傷病手当金受給終了後に老齢年金をさかのぼって請求した場合は調整されていないこと、在職中には併給調整されないなど、著しく不公平な実態となっております。至急改善することを求めます。

31.傷病手当金の支給期間延長と休業中の保険料免除を求めます。
 健康保険の傷病手当金の支給期間は最長1年6ヵ月となっています。しかし、がんやうつ病などは治療が長期化する場合が多く、収入が途絶えてしまいます。このような現状を踏まえ、傷病手当金の支給期間の延長を求めてきました。2021年6月4日の改正健康保険法で「支給期間の通算化」がされたことは改善点として評価しますが、期間については延長を求めます。
 また、休業期間中の社会保険料の負担は、小規模事業者等や従業員にとって厳しいものであり、給料支給がないことから保険料賦課の根拠もありません。傷病手当金受給中の休業期間は社会保険料を免除することを求めます。

32.外国人技能実習制度が労働者不足に苦しむ日本の産業を支えていることをふまえ柔軟で総合的な施策の実施を求めます。
 外国人技能実習制度は各企業で外国人を受け入れ「高度専門技術を学ぶ」という制度になっていますが、同時に労働者不足の産業に大きく貢献しています。しかし、行政の施策や各企業の対応が実習生への配慮が欠けたものになっている場合があります。実習生も各企業の大切な人材であり、日本を支えている一員であることをふまえ、各企業への指導や援助、制度の運用を柔軟におこない、必要な施策の実施を求めます。

33.外国人技能実習生の専門資格の取得や実習訓練にたいする支援策の強化を求めます。
 外国人技能実習制度は技能実習計画に基づき、主に職場内の実習訓練を行うことになっています。しかし、本来、技能の習得は職場内に限定されるものではなく、社外での訓練にも拡充されるべきです。職場外教育訓練への拡充、多言語に対応した在職者訓練(ハロートレーニング)の拡充と教育訓練経費を助成する制度の拡充を求めます。

34.市町村などを中心に、外国人技能実習生の地域コミュニティへの参画と生活支援のための施策の強化を求めます。
 国際交流センターなど各地方自治体で地域に居住する「在日外国人」の交流や支援が取り組まれています。外国人技能実習生はこのようなコミュニティとのかかわりが薄く、企業での労働以外では非常に孤独な状況です。特に中小企業・小規模事業で働く実習生は少人数のため、このような傾向が顕著です。受け入れ企業や監理団体と地方自治体が積極的に情報交換し、連携を密にすることにより実習生を地域の一員として支援し、地域や近隣住民とのトラブルを減少させる施策の強化を求めます。

35.日本で資格取得した外国人美容師が働ける特区の早期実現と利用しやすい制度の実施を求めます。
 内閣府、出入国在留管理庁及び厚生労働省の発信で、国家戦略特別区域外国人美容師育成事業実施要項(案)の制定に向けたパブリックコメントの募集が4月26日より5月25日の間に実施されました。
 我々は、業界や事業者と連携し、外国人美容師の日本国内における就労の実現に全力で取り組んできましたが、ようやく実現の兆しが見えてきたところです。
 今後、実施要領の制定に際しては、本事業の成功に向け多くの美容事業者の協力が得られ、外国人美容師が利用しやすい制度となるよう要望するとともに、早期の実現を求めます。

金融政策に関する要望

36.長期資本性ローンの拡充を求めます。
 「新型コロナ対策資本性劣後ローン」については、金利の低減や、協調融資時の保証協会の保証制度活用および期限の延長や借り換えが行えるように改め、金融機関が一括償還まで資本とみなす制度とすることを求めます。民間金融機関にも一層の周知と柔軟な取組みを推進するよう求めます。

37.『経営者保証に関するガイドライン』の周知徹底を求めます。
 個人保証に過度に依存しない金融制度の確立は、円滑な創業や事業承継、事業の拡大を進め、地域経済の振興を図るうえで不可欠です。一方、「経営者保証に関するガイドライン」の利用は広がりつつあるもののまだ限定的と思われます。「同ガイドライン」の周知を図るとともに、個別金融機関ごとの実績を公表するなど、さらなる活用促進を図ることを求めます。また、事業承継をスムーズに進めるため、相続時の保証継承や二重徴求等がないよう金融機関への指導を強めることを求めます。

38.きめ細やかな金融支援施策の拡充・強化を求めます。
 実質無利子・無担保融資制度の継続、既往債務の条件変更や借り換えの促進、新継続型短期保証制度の拡充等、きめ細かな金融支援を継続・強化することを求めます。

39.信用保証制度・協会の機能の活用を求めます。
 信用保証制度・保証協会機能は中小企業金融において大きな役割を果たしてきました。一方、全国の保証協会は金融機関経由となっております。以前行っていた金融機関を経由しない保証協会と企業の直接のやりとりの復活・推進なども含め検討を求めます。

40.金融機関に伴走支援型融資を求めます。
 金融機関、特に地域金融機関に対してはベンチマークの活用等によって金融仲介機能の発揮を促し、既存貸出の伴走支援型融資に加え、より機動的な活用が見込める「当座貸越」(コロナ型短期)保証枠の新設など積極的な活用を促し、中小企業への支援体制の強化に努めることを求めます。

デジタル化推進に関する要望

41.通信ネットワークの公共インフラとしての位置づけと無償化を求めます。
 現在の通信料(スマホ、宅内回線使用料)や民間任せの普及体制では世界におけるデジタル化からますます遅れをとることが予想されます。菅儀偉総理大臣が懸命に推進している利用料金についてもまだまだ大きな負担となっています。今後の日本経済発展のけん引役としてハード(ネットワーク)の地域間格差の解消と整備、ソフト(教育強化、充実した相談窓口の設置など)、両方向からの強力な支援体制の整備と道路のような公共インフラとして無償とすることを強く求めます。

42.IT導入補助金の拡充を求めます。
 IT導入補助金はIT活用による効率化の周知および促進に必要不可欠であるため更なる補助金の拡充を求めます。

43.テレワークを推進するための環境整備に対する助成金の拡充を求めます。
 インフラ整備が整っていない地方自治体で助成金などが活用されていますが、テレワークの推進を図るためにも更なる制度の拡充と、全国で統一された助成金などが必要です。

44.IT支援専門家の拡充を求めます。
 ITリテラシーの弱い中小企業・小規模事業者には相談窓口が不足しており、どこに相談してよいか分からない現状があります。簡単なことから専門的なことまで対応できるITのサポート機関が必要です。「デジタル活用支援員」構想の更なる制度拡充と早期実施を求めます。

45.gBizIDのサービス拡充を求めます。
 行政の窓口を一本化することを可能とするgBizIDの利用を推進し、行政サービスの拡充と利便性向上を訴えるための周知活動を行うよう求めます。

その他全般に関する要望

46.フリーランスに対する所得補償共済の創設を求めます。
 コロナ禍で仕事を失った方々への生活支援のため@1,000円〜@3,000円の掛け捨て保険料で@5万円/月コース〜@10万円/月コースなどの補償金額の設定をし、期間は半年間とする所得補償制度の検討を求めます。

47.再生可能エネルギー発電設備として小水力発電の推進を求めます。
 地球温暖化の中で、わが国では近年、集中豪雨被害が激増しています。日本は河川の流水が急であるため小水力発電が取組みやすい環境にあります。今後、国が掲げる2050年カーボンニュートラル施策の実現に向けて、太陽光、風力、バイオマス発電と共に小水力発電の施策の推進を求めます。

48.小規模事業者持続化補助金(一般型)の上限引き上げを求めます。
 小規模事業者を対象としていますが、店舗改装等を勘案すると少額となっています。補助上限額が現行50万円(単独申請)を100万円に引き上げることを求めます。

49.ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金の対象拡充を求めます。
 中小企業等による生産性向上に資する設備投資を支援する補助金ですが、建物・造作等についても補助対象とするよう対象の拡充を求めます。

50.中小企業等事業再構築促進事業の拡充を求めます。
 新分野展開や業態転換、事業・業種転換、事業再編又はこれらの取組を通じた規模の拡大等、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援するとされています。しかし、対象要件として基準期間の売上が10%以上減少していることを要件としています。コロナ禍での状況では妥当なルールだと考えられますが、今後、中小企業・小規模事業者の統合、再編が進むことが予想されます。その中で、雇用の維持、拡大の為にも同事業が積極的に活用される必要があります。ついては売上減少要件の廃止など制度の拡充を求めます。

51.事業承継・引継ぎ補助金の一層の周知を求めます。
 事業再編、事業統合を含む経営者の交代を契機として経営革新等を行う事業者に対して、その取組に要する経費の一部の補助を行います。また、専門家活用型では、譲渡、譲受、双方の士業専門家の活用にかかる費用の補助をする制度ですが、活用が十分になされていません。本制度の周知徹底を求めます。

52.電気技術主任者の不足に対応する施策を求めます。
 事業用の電気工作物の維持、運用と保安、監督を業とする電気工事技術者は、高齢化と、今後需要が見込まれるメガソーラーパネルなどの受電設備の普及に伴い、2030年に第3種電気主任技術者が2,000人不足するとも言われます。設備の保守、点検が出来なくなると大規模太陽光発電所などの施設は発電事業の継続が出来なくなる恐れがあります。こうした状況への対応を求めます。

53.新共済制度の創設、倒産防止共済の掛け金上限額の引上げを求めます。
 非常事態に対処しやすい新たな共済制度(仮称)災害準備共済制度の創設を求めます。共済金の積み立て時は経費とし、受取時には収益として経理処理を行い、災害等非常時に積立金が取り崩せる制度の創設を求めます。また、現行の制度では800万円を上限とする倒産防止共済の上限額引き上げを求めます。

54.各種補償金の手続きの迅速化を求めます。
 国、地方自治体を中心に各種補助金の給付申請期間について、申請から給付までに相当程度の期間を要します。手続きの簡素化を含めて更に迅速な対応を求めます。