2025年度 中小企業・小規模事業者の存続と発展を目指して 「国への要望書」
2025年08月01日 ティグレ連合会
目次
Ⅰ.はじめに
ティグレ連合会は、1973年に創立された全国約3 万の事業者組織であり、中小企業・小規模事業者(フリーランス含む、以下「小規模事業者等」)とその従業員、家族の「いのちとくらしをまもる」ことを理念に掲げ、活動しています。
昨今、消費税の増税やインボイス制度・源泉徴収制度の事務処理など、税制改正による小規模事業者等の税負担と事務負担が激増しており、事業者の悲鳴が聞こえてきます。小規模企業振興基本法にもある通り、日本経済の成長には小規模事業者等の事業継続が不可欠です。小規模事業者等は、大企業が提供しない細やかなサービスを手頃な価格で提供し社会を支えています。しかし現実には最終のサービスを担う受託事業者への支払いは抑えられる傾向にあります。国による支援と小規模事業者等が存続・発展できる政策の実施を強く求めます。
国際情勢では、ロシアによるウクライナ侵攻、ハマスとイスラエル、イランの衝突など武力衝突が断続的に発生し、自国主義の台頭も懸念されます。日本はグローバル化推進と平和主義を外交の柱とし、平和を求め続ける日本だからこそできる外交への政策転換を提言いたします。
国内では、能登半島地震の復興加速と、被災地の自治体・住民が求める支援を全力で取り組むことを求めます。
国民一人ひとりが日本の進むべき方向に関心と責任を持ち、協力していくためには政府と納税者の信頼関係構築が最重要であり、納税者主権の確立が不可欠です。納税者権利憲章の制定を求めます。
また、2025年6月27日に最高裁が生活保護基準引き下げを違法と判断しました。生活保護制度は憲法第25条に基づく最後のセーフティーネットであるにもかかわらず、十分に利用されず、誤った情報に基づくバッシングが後を絶ちません。早急な対応を求めます。
加えて、「デジタル化についていけない人々を取り残さず、全国民が幸せになる」観点からのデジタル化の一層の推進を強く要望いたします。
2025年もティグレ会員をはじめ、提携団体の皆様から多くの要望・意見が集まり、その内容は52項目にまとめられ、本要望書として提出する運びとなりました。
Ⅱ.申告納税制度に関する要望
1.納税者権利憲章の制定を求めます。
令和4年度税制改正において納税者の義務が法律に明記されました。そもそも納税者の権利についての明文規定がない中、納税者の義務だけが明記されることは納税者の権利が認められているとは言い難いと考えます。いち早く納税者権利憲章を制定し主権者としての立場を明確にすべきと考えます。
わが国の申告納税制度は、納税者が税法に基づいて自分で税額を算出した申告書を税務署に提出することで納税義務を確定させることであり、税務行政の適正な執行とともに納税者の協力が不可欠であるといえるのではないでしょうか。そのためには「納税者の権利」が法律によって保障され、納税者と課税庁が対等の関係になる必要があると考えます。主権者たる納税者の権利が保障されてこそ税務行政が適正に執行できると考えており「納税者権利憲章」の早急な制定を求めます。
その制定においては、納税者の権利を守るために次の2点を盛り込むことを強く求めます。
1)主権者たる納税者を善良なる者として取り扱われるものであること
2)独立した第三者機関での公正な権利救済がなされること
(国税不服審判所が設置されているが、大多数は国税職員が占めており独立した第三者機関とは言い難いこと)
2.災害関連条文の整備を求めます。
自然災害の多い日本列島では阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震、広島豪雨災害、球磨川流域豪雨水害など、毎年のように大規模な自然災害が発生しています。
令和6年1月1日に発生した「令和6年能登半島地震」の際には、多くの人々が被災・避難されたことから、申告や納付等の期限を延長、所得税法の雑損控除や災害減免法の税金軽減免除規定を「災害発生の前年である令和5年分においても認める」措置がとられました。この措置は、災害発生の都度、国会審議を経て特別立法で施行されています。所得税法第72条の雑損控除には「災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合において、その年における当該損失の金額…を、その年分の総所得金額…から控除する。(一部文章省略)」と規定されており、災害の発生年において控除することとなっていることから、災害が発生する度に特別立法とする手法がとられています。
この雑損控除や災害減免法は、災害等発生の年の税額を減免するものですが、今回のようにその年の前半に災害が発生すると、居住者の方が亡くなる場合や取引先・勤務先の事業継続が困難になり、その年を含め数年間所得が発生しない場合や減少に伴い、税額も発生しない場合や減少することとなり、この規定による救済の趣旨が大きく損なわれることとなります。
したがって、所得税法第72条第1項本文に「ただし、その災害が法定申告期限までに発生し、激甚災害に指定された場合には、その災害が発生した前年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除できることとする」を加えることもしくは激甚災害による被害を受けた場合は前年以前に繰り戻して適用できる規定にすることで、雑損控除等の救済の趣旨が生かされるものと考えます。
3.インボイス制度の凍結・廃止及び事務負担の増加に対する支援を求めます。
小規模事業者等の中には取引先や消費者との関係に配慮が欠かせず消費税を正しく転嫁できない状況があります。インボイス導入に際しては中小受託取引適正化法(下請法)等で受託代金の不当な減額に注意喚起をされました。確かに請求書等の書類上は、消費税を受け取っているようになっていますが、それ以前に行われた二度(3% → 5%、5% → 8%)の税率アップの際には、取引金額は据え置かれたとしても、税込みという名の下に実際は消費税アップ分の本体価格を減額された状況がまだまだあります。加えて円安やウクライナ侵攻をはじめとする海外での紛争等の影響による物価高の影響を受け、経済活動をより困難にしている現状においては、インボイス制度の凍結を強く求めます。
適格請求書は課税事業者しか発行できないため、建設業や鉄工所などのいわゆる一人親方、近年増加したフリーランスなどの免税事業者は、インボイス制度のもと、課税事業者となって消費税を納めるか、あるいは商品やサービスの価格を消費税分下げなければ取引ができなくなったりしています。このことは経済的にも事務的にも負担を強いている状況であり、小規模事業者等にとっては事業継続の瀬戸際に追い込まれるケースが出てきているということです。そもそも国内で事業者が行う取引は、課税事業者であろうと免税事業者であろうと原則消費税を含めた金額で取引しています。
税制改革法10条2項には、消費税の「本質的な課税標準」はあくまで「課税売上額から課税仕入額を差し引いた金額」(付加価値額)であるとしています。これは仕入税額控除をしなければならないと規定しているのです。であるにもかかわらず、インボイス登録事業者でない者との取引は仕入税額控除できないのはおかしいのではないかと考えます。これらを踏まえインボイス制度の廃止を求めます。
消費税は導入以来、小規模事業者等の納税事務の負担と納税の支払能力に配慮してきました(免税点制度・簡易課税制度など)。しかしインボイス制度はこの納税事務負担の配慮を軽視したものであり、さらに制度導入による取引先との交渉・確認など精神的負担や事業継続の可否を検討しなければならない苦悩など事業者に与える負の影響が多すぎると言っても過言ではないと考えます。
小規模事業者等にも、商法で会計帳簿作成義務が課されています。法人税・所得税の計算においても、会計帳簿を基に計算された利益を用いており、消費税の計算においても、会計帳簿作成時に課税区分を入力することにより行われています。一方で、会計帳簿の本来の意義は、小規模事業者等においては、管理会計であり、経営にしっかり役立てるということです。
しかしながらインボイス制度の導入は帳簿作成を非常に煩雑にし、会計帳簿作成に大きな負担を与え、帳簿作成の意義を損なわせる制度と言えます。
各事業者の事務処理負担はかなり増加しており、令和5年9月のインボイス制度導入前の民間会社による試算が公表されました。内容は各事業者の業務負担が増加、特に経理担当人件費負担が増加する。消費税増収「年間2,480億円」に対し「制度対応にかかる人件費:月額3,413億円」との試算結果でした。これだけのコスト負担を各事業者に負担させているとすれば、小規模事業者等の経営状況はますます苦しくなるばかりであり、即刻制度を凍結・廃止するよう求めます。凍結・廃止までの期間は、経過措置としての「みなし仕入れ(80%)」の恒久的措置や「2割特例」と「少額特例」の恒久化もしくは延長など早急に検討し実施することを求めます。
さらに先ほど触れた制度対応にかかる人件費などのコスト負担分については給付等による支援を求めます。
4.消費税の軽減税率を廃止し税率を5%にすることを求めます。
事務負担が多大な軽減税率を廃止し、単一税率に戻し負担を軽減させることは税の簡素化と徴収コストの低減にも寄与すると考えます。また当面の間、消費税率を5%に戻すことを求めます。
前項で、インボイス制度の凍結・廃止を求めましたが、インボイス導入の経緯は複数税率になるため、その税率ごとの取引金額と税額を買い手側に明確にするためだと承知しているところでありますが、単一税率にすればその必要もないものと考えております。
不足財源は、法人税・所得税の税率改定等と無駄な財政支出の削減で対応すべきだと考えます。企業は内部留保金をため込み、高額所得者は様々な税制上の恩恵を受けているのが現状です。
確かに留保金があったからコロナを乗り越えられたと言えなくはないのでしょうが、留保金を給与として従業員に還元されれば最低賃金のアップになり経済に好影響を与え、ひいては税の増収に繋がるものと考えます。また、高額所得者の中には金融資産の課税の恩恵も大きいものと考えます。今の金融資産の課税制度が株価を支えていることも理解できなくはないところですが、小規模事業者等は物価の高騰による利益率の低下等で事業活動や生活が困窮していく事業者にとって税率10%の消費税負担は非常に重たいものになっています。税の再配分を法人税や所得税で行うことによって社会の相互扶助を実現できるような税制を求めます。
5.簡易課税選択届出制度の見直しを求めます。
消費税の申告において、簡易課税を選択する場合は消費税法第37条第1項に、消費税簡易課税制度選択届出書を提出し、その届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間から簡易課税制度が適用されると規定されています。
つまり簡易課税制度を選択する場合は、選択したい課税期間の初日の前日までに届出書を提出しなければなりません。この制度の手続きの説明としては、「簡易課税制度は中小事業者の申告の煩雑さを考慮しているものであって、税額の損得で選択するものではないから、その課税期間に出してもその課税期間からではなく翌課税期間から適用されるのである。」といわれているところであります。
そうであるとすれば、同届出書の提出期限は前課税期間の申告期限(個人事業者の場合でいえば3月31日)までに提出すれば、提出した課税期間から適用できるように緩和することで、手続きの簡素化ができるものと考えます。
また前課税期間の申告期限であれば、その課税期間は3か月しか経過しておらず税額の損得計算で選択するものではないとの制度の趣旨にも齟齬をきたすものではないと考えます。
6.所得税の所得再分配機能を強化させる税制を求めます。
消費税が消費税が租税収入の中心となった反面、企業の国際競争力(価格を抑えるための輸出免税、諸外国との法人税率のバランスの考慮)からすると所得税や法人税の課税強化ができないと言われています。このような税収のバランス構造でいくと格差社会はさらに進行していくことが容易に想定できます。所得税を課税強化してもわずかだと言われますが、日本に住む大半の納税者が納得できる税のあり方のためにも所得税の所得再分配機能は必要だと思います。
よって以下の5点について要望いたします。
1)法人税を含めた累進課税の強化
2)金融資産課税の公平化に向け分離課税制度を廃止し総合課税へ一本化
3)居住用財産など生活関連資産の譲渡等への柔軟な対応
4)人的控除の拡大により課税最低限を引上げ
5)消費税の輸出免税を廃止
7.役員報酬の全額損金算入を求めます。
中小・小規模法人(以下小規模法人)は、社長・役員が経営をしながら現場で営業や業務を行い、また経理事務や総務・人事などのすべてのことを行っている法人が大多数です。そして会社を存続させるため、従業員の生活のため日々頑張っています。
そうした会社経営の中で、計画的に利益を出し、毎期の利益を予測することは非常に難しいことです。企業努力をしたり、たまたま利益率の良い仕事が取れたり運が良かったりなど日々の頑張りの中で利益がもたらされることがありますが、これらを事前に予測し、計画したものしか(定期同額・事前確定給与)損金として認められないのでは、この恵みを、小規模法人の経営や企業成長にうまく活用することはできません。大企業・業務執行役員は業績連動給与が認められているのに対し、小規模法人はこの制度にうまく合致しておらず、年俸制のような役員給与の設定はそぐわないものとなっております。
したがって小規模法人はその時々の業績の結果を踏まえ、役員給与は柔軟に決定されるべきと考えます。資本金1,000万円(もしくは500万円)以下の小規模法人に関しては、同族会社であろうが業績に応じた役員の給与・賞与について全額損金算入を求めます。
8.年末調整制度の廃止と全員確定申告制度の導入を求めます。
年末調整制度は、事業者が従業員の納税について計算や納税作業を代行して行うため給与所得者は税制度への関心や理解が薄くなりがちです。納税者が、自らの納税について理解することは不可欠です。平成30年度の徴税コストは100円当たり1.22円(国税庁70年史)ということです。源泉徴収による年末調整制度が徴税に大きく貢献してきたことは理解しますが、小規模事業者等にとって年末調整の事務負担は小さなものではありません。
令和7年度の税制改正では、課税最低限度額を引き上げるためとはいえ、基礎控除の増額に加え令和7年8年に限り段階的な上乗せや特定親族特別控除(9段階)の創設など複雑化されており、事務担当者は精度(各種所得控除の計算等)面においても精神面においても大きな負担となっており、一定の税知識のある職員が必要であり、人件費の負担増につながっています。また、担当者を雇えない場合において、小規模事業者等の事業主が年末調整事務を行うことは不可能に近く、税理士に手数料を支払って依頼するケースが増加すると思われます。令和7年4月に発表された「令和5年度分会社標本調査」によれば、資本金1,000万円以下の法人の約62.4%が赤字法人であり、年末調整事務に係るわずかな経費も負担が小さいとはいえない現状にあります。
また、納税者の正しい税知識の醸成のため、主権者たる納税者が国政に関心を向けるためにも年末調整制度を廃止し全員確定申告制度の導入を求めるところです。現状を勘案し当面、事業主が年末調整と確定申告を選択することが出来る制度の導入を求めます。また、小規模事業者等に対して年末調整制度を選択した場合には、その費用負担に見合う補助金等の支援を求めます。
9.記帳の不慣れな納税者等への対応策を求めます。
令和4年度税制改正で所得税及び法人税の税務調査において、証拠書類を提示せずに簿外経費を主張する納税者などへの対応策として、必要経費不算入・損金不算入の措置が講じられましたが、この改正の運用においては各事業者の経営環境を踏まえた柔軟な対応を求めます。
そもそも消費税が導入された当初の「仕入れに係る消費税額の控除」は記帳または原始記録の保存と規定されていたものが、記帳及び原始記録の保存に改められ、帳簿の記載事項も課税仕入れの相手方の氏名又は名称など細かく規定されました。所得税法では、「整然と、かつ、明瞭に記録しなければならない。」と規定されており、記載内容は納税者に任せられていると思われます。消費税法で原始記録の保存を規定しながら、なぜ記帳内容まで細かく規定し事務負担を強いる必要があるのでしょうか。先だっての国税調査においては、原始記録で仕入税額に関する内容の確認が十分に行える状況にありながら、調査担当者からは「相手先の名前が書いていないような帳簿では、仕入税額控除はできない。」との発言もあるなど、上記規定の濫用とも思える形式的な基準で仕入税額控除を否認するなど納税者の適正な申告に対する意欲を削ぐような調査が行われました。
さらに、クレジットカードは原始記録には当たらないとされております。確かにクレジットカードの明細では軽減税率等の区分が表示できないため理解できなくもないですが、第4項で申し上げたように単一税率にすれば登録番号の表示を追加することで充足されるものと考えておりますので、原始記録にクレジットカードを含めることで保存の簡素化に繋がるものと考えます。
10.納税環境の整備(税務調査における事前通知の改善)を求めます。
平成23年に国税通則法が改正され、「税務調査を開始する時の手続き明確化(事前通知)」と「処分の理由附記」が義務付けされましたが、納税者への「事前通知」は口頭とされています。納税者にとって「口頭通知」は突然であり心の準備も出来ていない状況です。調査経験の有無にかかわらず、「口頭だけでの通知」だけでは内容を十分に理解することが困難であり、準備書類の不足等によるその後の円滑な調査展開に支障をきたす恐れもあります。こういったことから「文書」での事前通知の徹底と、無予告時の税務調査において「事前通知」を行わなかった理由の開示が常に行われることを求めます。
11.電子帳簿等保存制度の対応困難者への配慮を求めます。
令和5年度税制改正において、「相当の理由があると認められる場合、その電子取引データの出力書面の提示・提出の求め及び電子取引データのダウンロードの求めに応じることができるようにしておけば、保存要件を不要として、電子取引データの保存を可能とする。」との新たな猶予措置が設けられたところです。
しかし、小規模事業者等のほとんどは経理事務担当を雇う余裕はなく、事業者本人が経理事務を含めすべての事業活動を行っています。この事業活動においては、取引先からは取引金額の圧縮を求められており、経費削減のためインターネットで安価な消耗品等の購入の努力をしてもデジタル化への対応(時間的・費用的)はおろか知識習得すら困難であり、どうにかインターネットで物を買える程度が精一杯な状況にあります。電子化の流れは国の政策であり、社会の流れであることは理解しておりますが、小規模事業者等には対応困難者が多数を占めるという現実をも認識いただきたいと思います。
また、所得税法第232条(事業所得等を有する者の帳簿書類の備付け等)においては、「…所得を生ずべき業務に係るその取引のうち総収入金額及び必要経費に関する事項を財務省令で定める簡易な方法により記録し、かつ、当該帳簿(…又は受領した財務省令で定める書類を含む。…)を保存しなければならない。」と規定されており、財務省令である所得税法施行規則第102条第3項第2号において「…受領した請求書、納品書、送り状、領収書その他これらに類する書類」と規定されております。つまり、小規模事業者等はこの規定により、限られた時間と多くの事務量の中でこれまで精一杯記帳及び原始記録の保存に努めてきていたところであり、これ以上の負担となる電子帳簿等保存制度について、これまでどおりプリントアウトした原始記録の保存を認め事務負担軽減に配慮した施策の実施を強く求めます。
12.収受印の押印の継続・電子申告(利用者識別番号の取得)の改善を求めます。
国税庁のHPによりますと、「あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる社会の実現」とうたわれており、その一環としてe-Taxの利用による電子申告を推進されており、スマホからも送信できるなど利用者の利便性が向上したことは理解しております。
その反面、一定のIT弱者の存在があることも事実であり、そういった方は税務署で指導を受けて手続きを行うか、書面での提出を行っている現実もあります。また、年末調整制度の廃止と全員確定申告制度の導入の項でも申し上げましたが、税法が年々複雑になっており税務署の手助けの比重が大きくなっている現状もあります。
そういった中で、当分の間は申告書等を収受した「日付」や「税務署名」を記載したリーフレットを希望者に交付することになっていますが、本年1月からは窓口での収受印の押印が実質的には廃止されております。
確かに確定申告における税務署での対応は、PCによる申告書作成でありe-Taxに対応しているので問題はないと思われますが、小規模事業者等の中には、自分自身で申告書を作成して提出される方や、確定申告期以外に各種申請書や届出書は書面による提出も多く存在しているものと思われます。小規模事業者等からすると、確定申告は事業の一年の締めくくり(総決算)という意識も強く、納税者自ら集計、決算した申告書への収受印の押印がある控えを保存したいという意識が根強いのではないでしょうか。
行政側は、その後の処分(延滞税や加算税の計算等)が想定されるため、当然受付の日付は残しているものと想定しているところですが、行政側の都合のみが感じられる控えへの収受印の押印廃止は受け入れられるものではありません。オンライン環境の導入・維持・管理が困難な事業者への対応としても、窓口提出分については、納税者と税務行政庁との貴重な接点として控えへの収受印の押印継続を求めます。
更に各種の届け出の中には、一度提出すると半永久的に効力を持つものもあり、過去に書面で提出したものが有効であるにもかかわらず、電子送信の履歴に表示がないために誤った処理をしてしまう場合も考えられます。また、納税者の受託者間で利用者識別番号が適切に引き継がれないことも想定されるため、届出書等はあえて書面で提出し、その控えを保存するといったケースもあり収受印の押印は必要と考えます。
また、相続税の申告において、ある相続人が海外居住者の場合は、その者の利用者識別番号が取得できないため、e-Taxが利用できず、他の共同相続人も書面での申告となります。この場合においても収受印の押印がなければ、納税者側(委託を受けた税理士事務所)は余分な管理コストを負担することになります。受信者側の環境整備(利用者識別番号の照会サービス、データ容量の増設等)は評価できますが、利便性は半減しているのではないかと考えます。今後、グローバル化がより一層進展し、相続人が国外に居住する状況は多くなることも想定される中、より未来を見据えた対応をお願いしたいと思います。
Ⅲ.労働と社会保障制度に関する要望
13.労災第2種特別加入の対象拡大と第1種特別加入との合併及び、加入団体・事務委託制度以外の簡易な加入手続き制度の創設と一人親方への報奨金制度の導入を求めます。
労災の事業主の特別加入制度は、第1種特別加入(中小企業事業主等)に加入していても従業員がいなくなると第2種特別加入(一人親方、特定作業従事者)に変更しなければなりません。また、第2種特別加入に加入していても従業員を雇うと第1種特別加入に変更しなければなりません。小規模事業主にとっては、行ったり来たりで手続きが煩雑です。
小規模事業主は自らも危険な業務に従事していることが非常に多く、労働者に準じて労災保険により保護されるべき者がほとんどです。第2種特別加入の適用範囲が近年拡大されてきてはいますが、現在限定されている業種をすべての業種に拡大し、第1種特別加入の対象となる事業主を包含した制度への一本化を求めます。
つまり、従業員の有無にかかわらず一定の規模以下の事業所が事業主も含めて加入できる「小規模事業者労働災害保険(仮称)」制度の創設を求めます。
また、特別加入制度は現在、労働保険事務組合又は一人親方等の団体を通じて加入することとなっているため保険料以外にも手続きに要する費用負担が必要になります。事業主の費用負担軽減のため、事業主の直接手続きでも特別加入できる制度への改正を求めるとともに第2種特別加入についての労働保険事務組合への報奨金制度も求めます。
14.一般の従業員と著しく異ならない労務に従事する法人代表者等の業務上の疾病等に対する健康保険の保険給付について被保険者数によらずに対象とすることを求めます。
平成15年7月1日の厚生労働省保険局長通知(保発第0701002号)によって小規模な事業所の法人代表者等は、業務に起因して生じた傷病に関しても健康保険給付の対象とすることとなっていますが、事業所の規模の要件として「健康保険の被保険者が5人未満」とされています。
一方で、労働者災害補償保険には特別加入制度があり、労働者と同様の業務に従事する中小事業主等であっても労災保険の給付を受けることができます。特別加入制度で中小事業主等と認められる企業規模は業種によっては「300人以下の労働者数」とされており、健康保険の要件よりも広範囲です。しかし、特別加入制度は強制ではなく任意であり、同制度を利用するには、労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していることが条件となります。また、昨年11月からフリーランスも労災保険に特別加入できるようになりましたが、現時点では特別加入制度そのものが広く中小事業主等に周知されているとは言い切れません。
そのため、特別加入制度を知らない、あるいは加入していない中小事業主等で事業所に5人以上の健康保険の被保険者がいる場合、業務に起因した傷病に対して健康保険の給付も労災保険の給付も受けられないこととなります。保険適用外となった場合には、10割の医療費負担は小規模な事業所の法人代表者等にとって重く、経済的困窮を招くことも考えられます。また、事業所の人数規模によって業務上の疾病等に関する保険給付の対象が異なるのは保険料負担の観点からみても不公平といえます。
以上のことから、セーフティネットとしての健康保険の役割からして、この対象となる基準を、労働者災害補償保険の中小事業主等の特別加入が認められる企業規模と同一とするように見直しを求めます。
15.労働保険事務組合に対する報奨金の上限額の撤廃を求めます。
労働保険事務組合(以下「事務組合」という)の保険料、一般拠出金の申告納付その他労働保険事務の適正な遂行の労に報い、もって労働保険料、一般拠出金の収納率を高く維持するために、納付状況が著しく良好な事務組合に対し、毎年1回報奨金が交付されます。これは、今後における当該事務組合の適正な事務処理を奨励するとともに、事務組合制度の普及発展と、小規模事業者等への労働保険の適用を促進することを目的としています。
働き方改革の進展で労働時間や雇用形態の変化が進む中で労働保険に関する手続きの複雑化、事業形態や規模が多様化する中での労働保険に関する事務処理の複雑化、労働力不足が深刻化する中での事業者の負担増等々、このような環境下で労働保険事務組合制度の必要性が益々高まると思われます。
また令和2年4月1日より、従来あった委託事業所の地域要件が撤廃され、全国どこでも委託できるようになりました。これに伴い、事務組合の業務処理の範囲も規模も大きくすることができ安定的な運営が求められます。
このような環境の変化や事務組合の規模の拡大に鑑み、報奨金の上限を1千万円としていますがその上限の撤廃を求めます。
16.短時間労働者への社会保険適用拡大に対して、適用の緩和と事業主負担分の保険料率軽減を求めます。
社会保険加入の適用範囲拡大について小規模事業者等への配慮を求めます。
短時間労働者の社会保険加入要件において、①企業規模要件を段階的に拡大し最終的には2035年にはすべての規模の企業を対象とする、②年収要件の撤廃等の見直しがされます。このことによる社会保険料の事業主負担増加は、近年の最低賃金の大幅な引き上げとも相まって人件費の増大による小規模事業者等の大量倒産に繋がる可能性があります。
政府は、①短時間労働者への支援策として、3年間事業主の追加負担による短時間労働者の保険料負担を軽減し、事業主の追加負担分について国が全額返金する支援策及び、②事業主向けの支援として、社会保険の加入にあたり労働者の収入を増加させる事業主への助成金(キャリアアップ助成金の社会保険適用処遇改善コース)による支援策を用意していますが、いずれも労働者の保険料負担を軽減するための施策であり、むしろ事業主は社会保険料事業主負担に加えて賃金も上げなければならないため、人件費率は増すばかりとなっています。
したがって改正内容の規模要件の緩和と、小規模事業者等には適用事業所になった場合、週20 時間以上30 時間未満の労働者の過半数が加入に反対した時は、原則加入しないですむ制度の創設、中小企業等の社会保険料の事業主負担の料率引下げを求めます。併せて企業規模に関わらずに同率で社会保険料を負担している不公平を是正するために大企業については、事業主負担分に加え社会保険制度全体を支える「支援金(仮称)」の創設を求めます。
17.賞与等が雇用保険料及び健康保険料の算定に含まれるのに対し、給付には反映されない根拠の説明と負担と給付とのバランスを考えた制度になるよう求めます。
雇用保険料及び健康保険料の徴収額計算において賞与等の金額が含まれているにもかかわらず、失業等給付及び傷病手当金の給付には賞与等の金額を含めない額を計算の根拠としています。本来の「保険の原則」や保険事故に対する「生活保障という目的」から鑑みても、保険料の負担と保険金の給付バランスが著しく欠け、保険事故が起こった際の保障としては不十分な、不合理な仕組みとなっています。このような仕組みの根拠の合理的な説明と賞与等の額を給付金額に反映させるなど制度の見直しを求めます。
18.中小企業における障害者雇用率の見直しを求めます。
現在、障害者の法定雇用率は民間企業 2.5%、国・地方公共団体 2.8%、都道府県等の教育委員会 2.7%となっております。40人以上の従業員を抱える中小企業は1人以上の障害者を雇用する義務があります。令和8年7月以降は、民間企業 2.7%、国・地方公共団体 3.0%、都道府県等の教育委員会 2.9%へと引き上げられる予定です。中小企業が達成しなくてはいけない条件がより厳しくなります。
大企業に比べて中小企業は障害者雇用に対応する環境整備に限界があります。大企業はその規模を活かして障害者雇用に特別の配慮をした子会社を設立することができます。大企業のほうが障害の特性に配慮した仕事の確保や環境の整備が容易であり、障害者も環境整備が整っている大企業のほうがより働きやすいと思います。
また、障害者雇用納付金制度においては、常用雇用労働者の総数が100人を超える企業に対して、法定雇用障害者数を下回っている場合に納付金を納めるよう定めており、事業所の人数規模に応じて分けております。
よって法定雇用率は大企業と中小企業とで分けて、大企業の率を高くし、中小企業の率を低くすることを求めます。
19.社会保険・労働保険等の手続きについて、行政機関等を横断したプラットフォームの設置を求めます。
2024年10月より社会保険の適用拡大の施策として被保険者数51人以上の企業において、週所定労働時間20 時間以上の短時間労働者に対して適用が始まりましたが、今般2035年10月までに段階的に企業規模人数の撤廃をする法案が通常国会へ提出されたところです。今後、これまで対象とされていなかった小規模事業者等に従事する短時間労働者の多くに社会保険手続きが始まり、社会保険料負担を経営の大きな足かせと感じていた小規模事業者等においても法令に沿った適正手続きが求められるところです。
また、雇用保険についても2028年10月よりこれまでの週所定労働時間20時間以上から10時間以上が被保険者となるように、適用拡大する法改正が成立しました。なお、総務省の労働力調査では2023年時点でその対象者は全国で約506万人に上るとされています。この雇用保険適用拡大の背景には、労働者の働き方や生計維持の在り方の多様化が進展していること、さらに雇用のセーフティネットを拡げるこれまでの課題を解決すると考えられています。しかし、これまでは所定労働時間が20時間未満の従業員を雇用していたため労災保険のみが対象となっていて雇用保険の適用事業場でなかった小規模事業者等については、適用拡大によって新たに雇用保険の事業所としての届出に加えて、加入させる必要があるほとんどの労働者について資格取得手続きが必要となります。また、これまでは雇用保険の適用事業場ではなかった小規模事業者等は、事業者として初めて雇用保険料の源泉徴収事務を実施することとなり、その混乱が想定されます。
さらに、雇用保険の適用拡大によって週所定労働時間が10時間以上となった影響で、あくまでも可能性とはなりますが冒頭の「社会保険の短時間労働者」についても同様に週所定労働時間を10時間以上とする要件変更がなされた場合には、かような小規模事業者等については社会保険の経済的負担もさることながら、公共職業安定所や労働基準監督署、日本年金機構や全国健康保険協会・健康保険組合などの行政機関等がそれぞれに保有する統一性のないシステムを利用せざるを得ない状況となるため、それに対応できなかったがために未手続き事業所となってしまう可能性が十分に考えられます。
その一方で、日本の労働力人口は2020年から2040年にかけて約900万人(※)減少する見込みの中で外国人による労働力に多くの期待が寄せられていますが、人権問題にも関わるような雇用管理や不法就労問題に対する改善が事業者に求められているところです。
近い将来、これらの諸条件が重なることが非常に現実味を帯びている中、これまで通り行政機関等がそれぞれに準備したプラットフォームからの手続きを求めることや、特に新たに対象となる小規模事業者等に適正手続きを求めることは、余りにも酷であります。デジタル庁の発足がされている中、国土交通省の建設キャリアアップシステム(CCUS)などのプラットフォームを成功例として関係省庁や日本年金機構・全国健康保険協会・健康保険組合などが一致団結して「特に小規模事業者等の視点に立った施策」を強力に推進し、全ての事業者に行き届く仕組みづくりを望みます。
(※)6,902万人から6,002万人/ 2023年度版労働力需給の推計(労働政策研究・研修機構)より引用
20.労働保険、社会保険の保険料の算定期間を所得税の年末調整と同様に1月から12月の暦年とし、算定対象の賃金から通勤手当(所得税同一基準)を除き、統一したフォーマットで事業者の負担軽減と公平で簡素な制度にすることを求めます。
社会保険料の定時決定(算定基礎届)は、4月から6月の報酬で保険料が決定され、その後に固定的賃金の変動があり、2等級以上の標準報酬月額の変更があった際にはその度に随時改定の届け出をしなければなりません。定時決定の算定期間が3か月の平均であることから公平に標準報酬月額が決定されているとは言えず、また固定的賃金や所定労働時間が変わる度に随時改定の届け出の要否を検討することは、事業主にとって煩雑な事務負担となっており、煩雑さ故にルール通りに運用できていないケースが多くあります。
また、労働保険料は4月から翌年3月、社会保険料は4月から6月、所得税の年末調整は1月から12月とバラバラの算定期間によって、それぞれを計算することになっています。これらの計算期間の違いが、事業者にとって大きな事務負担に繋がっています。
さらに通勤手当について、社会保険料及び労働保険料はその算定の対象賃金に含めるのに対して、源泉所得税の計算では原則非課税として給与金額に含めません。通勤手当は、厚生年金法第3条第3項の「労働の対償として受けるもの」ではないと解されます。その根拠は以下の点からも明らかです。
☆ 所得税法では実費弁済的なものであるから非課税としている
☆ 昭和27年厚生省の疑義解釈において「通勤手当は生活費の一部から報酬であると解する」としているが実費弁済とする所得税法との解釈に矛盾がある
☆ 過去にも国会の委員会で何度も取り上げられているが、保険料収入の減少を理由に結論を出していない
☆ 出張旅費や赴任旅費、作業衣、制服等は実費弁済的なものとして報酬に含まれない
☆ 在宅勤務者が自宅勤務の日に一時的・臨時的に出社した場合の通勤費は算定対象にならない
源泉所得税と社会保険・労働保険料の計算期間及び計算対象報酬を合せることにより事業主から統一したフォーマットの賃金報告書類の提出を受けて、国が一括して源泉所得税、社会保険・労働保険料を計算し、徴収・付加する方式に変更することを求めます。このことにより、企業や当該官庁の事務的負担を大幅に軽減することができます。財務省、厚労省と連携し要望した内容が実現できるように大きな制度改革を求めます。
21.「キャリアアップ助成金 正社員化コース」の対象労働者の要件の見直しを求めます。
事業所が助成金を活用するにあたり、それぞれ助成金には目的がありますが、キャリアアップ助成金などの主旨には「有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者等の企業内でのキャリアアップ(職務経験や職業訓練等の能力開発機会を通じ、職業能力の向上が図られ、これによりその将来の職務上の地位や賃金をはじめとする処遇の改善が図られることをいう。以下同じ。)を支援するため、これらの取組を実施した事業主に対して助成金を支給することにより、労働者の雇用の安定、処遇の改善を推進するものである。」とあります。
一方で対象となる労働者の要件は、過去3年以内に当該事業所と請負もしくは委任の関係にあった者は正社員化コースの対象となる労働者から除かれており、制度の主旨との違和感があります。
当該事業所に、労働者として採用されたうえは、事業所の指揮命令下により雇用される一労働者として等しく、職務経験や職業訓練等の能力開発機会を与えられ、職業能力の向上とその将来の職務上の地位や賃金をはじめとする処遇の改善が図られるべきであり、このような直接雇用前の就労形態により対象労働者から除かれることは、事業所の職業能力の開発の機会の意欲を削ぎ、均等な教育機会などの待遇の差を生むことにも繫がります。結果、一部の労働者の職業能力の開発機会の損失と当該事業所での職務上の地位や賃金など、将来の処遇にも影響を与える可能性があるため、対象労働者から請負もしくは委任の関係にあった者を除くとする要件の削除を求めます。
22.「キャリアアップ助成金 正社員化コース」の正規雇用労働者の定義の見直しを求めます。
キャリアアップ助成金(正社員化コース)は、就業規則等に規定した制度に基づき、有期雇用労働者等を正規雇用労働者化(以下、正社員という)した取組に対する助成金ですが、「正規雇用労働者の定義」として転換後の正社員に適用される就業規則において「賞与または退職金の制度」の規定がされ、かつ「昇給」が転換時点で適用されている正社員への転換に限る、とされています。更に就業規則等で規定されていたとしても、支給対象期間中に実施が予定されている「賞与」「昇給」等が適用されていない場合、正規雇用労働者の要件を満たさず、支給対象とならない場合があります。
小規模事業者等においては、その経営状態の脆弱さから、正社員であっても必ずしも賞与や退職金及び、定期昇給があるところばかりではありません。
本来、このキャリアアップ助成金(正社員化コース)は、雇用が安定しない有期労働者の雇用を確保することを目的に無期雇用への転換が目的であったはずです。しかしながら、近年になって審査基準が厳しくなり上記のような正社員の定義が後付けでなされ、助成金を申請できない小規模事業者等が増大しております。
正社員であれば賞与は年間10万円以上の支給があるべきとの基準を設定するなど、本来は労使自治で決定するべき、会社の賃金支払い形態の変更を迫るような項目も見られ、本助成金の申請対象事業者が大手企業を主要な目的とし、小規模事業者等については排除するような動きに見受けられます。人材不足が深刻な昨今において、大企業や資本力のある企業などがより有利な条件となり、競争力のない小規模事業者等にとって公平性に欠けるため、現在の「正規雇用労働者の定義」を撤廃若しくは見直しすることを強く求めます。
23.雇用関係助成金ポータルを利用した電子申請手続きの利用機会を増やすために、事業者が社会保険労務士にその手続きを依頼する際に必須となる要件について、紙媒体での手続き時の要件と同程度となるように見直しすることを求めます。
電子行政の推進は「新たな情報通信技術戦略」として、政府情報システムについて徹底した業務改革をするとされており、法律においても「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律」が施行されています。その第1条には「情報通信技術の効果的な活用の推進に関する施策について定めることにより、手続等に係る関係者の利便性の向上、行政運営の簡素化及び効率化並びに社会経済活動の更なる円滑化を図り…」と規定されています。
厚生労働省で管掌される雇用関係助成金では、これまでも「e-Gov」や「雇用調整助成金・産業雇用安定助成金オンラインシステム」で助成金の電子申請の運用がされていて、申請可能な助成金の数が多くなかった感がありましたが、令和5年に「雇用関係助成金ポータル」が開設されたことによって、特に小規模事業者等で急務となっている従業員の正社員化やスキルアップ、また両立支援にかかわる助成金についての電子申請の利用が可能な状況となっています。
ただ電子申請が利用可能な状況にあっても、令和6年版情報通信白書(※ 1)によれば、20歳代から60歳代の電子行政サービスを生活や仕事において利用する割合は15%以下であったという結果になっており、電子申請の利用率向上の促進が期待されるところです。
事業者が、(雇用関係助成金を除いた)一般的な労働・社会保険の手続き申請をするために、社会保険労務士へ事務の委託をした場合、行政機関等への申請はそのほとんどを電子申請によって手続きをすることが一般的です。また、申請の際には手続き関係を証明するために「提出代行に関する証明書」の添付をすることとなっており、事業主はその手続きについて事務委託契約に基づき、依頼する意思表示のみで足りるとされています。
その一方で、雇用関係助成金について「雇用関係助成金ポータル」を利用して電子申請をする場合には、紙媒体で助成金申請をするときには必要がなかった、手続き依頼をする事業主の作業として「GビズIDの取得・設定」と「社会保険労務士を代理先とする設定」(※ 2)を実施する必要があります。その結果、ITCリテラシーやデジタル人材が不足することが多い小規模事業者等にも同じように要求されてしまい、電子行政の推進効果は大企業と一定程度以上の中企業に限定されてしまっている状況にあると考えます。
そもそも、社会保険労務士法に定める「手続代行」や「事務代理」行為は、コンメンタール(※ 3)によると決定通知書等の文書について代理受領をする権限は認められておらず、実務上もその取扱いがなされていますので手続き依頼をする事業主が「社会保険労務士を代理先とする設定」も適切ではないと考えます。
しかしながら、「雇用関係助成金ポータル」についてシステム上のセキュリティ担保は重要ですので、雇用関係助成金の申請手続きの依頼を受け、実際にシステムを利用する側の社会保険労務士が電子申請をする際に、万全を期した運用であるべきと考えます。
そこで、事業者より助成金申請事務の委託を受けた社会保険労務士が「雇用関係助成金ポータル」で電子申請をする際は、「小規模事業者等自身がGビズIDの取得・設定などをすることを不要」とし、「社会保険労務士のGビズIDの申請情報で①提出代行に関する証明書と、②支払方法・受取人住所届の添付」をすることで申請可能となるように見直すことを求めます。
(※ 1)【引用】総務省 令和6年版情報通信白書 第II部第1章第11節「デジタル活用の動向」より
(※ 2)【資料】雇用関係助成金ポータル電子申請マニュアル(令和6年4月厚生労働省職業安定局)
(※ 3)【情報】社会保険労務士法詳解(厚生労働省労働基準局労働保険徴収課監修/全国社会保険労務士会 編)について、コンメンタールとして運用がされている旨を、全国社会保険労務士会連合会に確認済み。
24.繁忙期での雇用保険取得届電子申請後の公文書発行のスピードアップを求めます。
毎年4月の入退社が多い時期に、雇用保険取得の電子申請後、行政から発行される公文書にかなり時間がかかっています。(約1か月間)
建設業に従事する労働者の場合、建設現場に入場する際に雇用保険被保険者証の提示を求められることが多く、提示できない場合は入場できないこともあり、建設現場での作業に支障を来します。繁忙期で忙しいのは承知しておりますが、その時期には電子申請対応の人員を増やしていただくなどの対応をお願いします。
25.時間単位有給休暇の上限撤廃、もしくは上限の引き上げを求めます。
時間単位有給休暇は、1時間から取得できるというメリットがあり、育児や介護に携わる労働者や今後益々進むであろうワークライフバランスに配慮した多様な働き方を望む労働者にとって、非常に使い勝手の良い制度になっています。
現在は、時間単位有給休暇で取得できる上限が年5日と制限があります。
丸一日休んでリフレッシュできるように、一日取得が原則という有給休暇制度当初の趣旨があるのは理解していますが、時代の変化とともに労働者の思考も変化してきており、時間単位有給休暇の上限撤廃もしくは上限の引き上げにより、有給休暇取得の利便性が上がると思われますので、検討をお願いします。
IV.技能実習制度及び特定技能制度等に関する要望
26.受入れ分野ごとに監督省庁の異なる特定技能手続きに関して申請窓口の一元化を求めます。
現在は、特定技能制度において受入れ分野ごとで各監督省庁での手続きが必要となっています。それぞれの監督省庁ごとで対応が異なり、分野によって申請に要する期間や事務手続きの煩雑性が異なるため、受入れ分野ごとで大きな差異が生まれています。今後、日本で就労する外国人数の増加を見込んでいることも踏まえ、分野ごとでの申請格差を低減するために、集約一元化できる各監督省庁の外国人就労の認可部署を統合した部署を設けるなど、申請について大きな差異のない運用を求めます。
27.外国人技能実習機構の管轄範囲を特定技能制度も包摂し、受入れ、適切な監理を実施するよう求めます。
現在、技能実習制度において、外国人技能実習機構が実地検査等、技能実習に関する検査や監督を行っていますが、特定技能制度に関しても、外国人材の保護や受入れに関する適切な監理を行うため、各省庁が分野ごとで行うのではなく、外国人技能実習機構の管轄範囲を拡大し特定技能外国人材に関しても適切な監理を行うことを求めます。
28.外国人の人権保護を確実なものとするため受入れ企業については事前許可制とすることを求めます。
現在、技能実習制度の実習計画認定の流れは、まず受入企業が外国人材を採用し、採用後に外国人技能実習機構へ計画認定の申請を行い、認定後、実習を開始し、外国人技能実習機構は、3年に一度の検査を行うことにより外国人の保護を行っていますが、今後、育成就労制度等では、受入企業の事前検査による許可制とし、採用するよりも前に職種・産業分野等の合致性、労働環境の確認等を行い、許可後に外国人材の採用が行えるようにすることを求めます。
29.悪徳ブローカー排除の強化を図るため外国人材の来日に要する費用負担の明確化を求めます。
母国における募集時のブローカーの排除を一層強化することと外国人材の来日に要する費用負担の上限に関し、一定の基準は設けられているものの様々な解釈がなされているため、日本語教育研修費用、寮費、申請費用等の負担額上限に該当するものに関して詳細を明示し、明確化することを求めます。
30.日本における労働人口が減少する中、「日本に働きに来て頂く」という概念のもとで外国人材に対する多角的な支援策を講じることを求めます。
コロナ禍において、各地方自治体は技能実習生の入国に際し、一部交通費等に関して助成が行われたように、今後も小規模事業者等が受入企業となる際には、外国人材を受け入れる際の入国費用の助成や地方企業から都市部への流出を防ぐような多角的な助成策を実施することを求めます。
また今後、新たな制度を掲げ外国人に魅力のある「選ばれる国」になるためにも、諸外国の政府が取り組むように外国人材の日本語学習に関して、助成策も含めた政府のサポートと関与を求めます。
V.金融政策に関する要望
31.金融庁の金融機関向け監督指針に関して各金融機関への具体的実施に向けた管理監督の強化を求めます。
監督指針には、「資金繰り支援にとどまらない経営改善支援や事業再生支援等」について「先延ばしすることなく実施する必要がある」とありますが、このことにより「貸し渋りや貸しはがし」が起こらないよう監理体制の強化を求めます。
32.金利上昇による小規模事業者等及び住宅ローン利用者への支援策の策定と上昇時の速やかな支援策の実施を求めます。
帝国データバンクが2025年3月に実施した「金利上昇に関する企業の影響度調査」によると、今後金利が上昇した場合、自社の事業に「プラスの影響のほうが大きい」と見込む企業は2.5%にとどまった一方、「マイナスの影響のほうが大きい」は57.6%で最も高くなった、とあります。
現在の物価高で企業、家計双方が苦しいやり繰りを強いられている中で、さらに利息負担の増加で企業収益が圧迫されるほか、家計における住宅ローン金利の負担が増加するなどのマイナスの影響が懸念されます。
そのため、支援策として所得制限緩和や対象年数の拡充等による住宅ローン控除の対象を強化することや金融機関へ利上げ局面において中小企業対応を柔軟にしてくださるよう要望します。
33.過度な資産運用への誘導を是正し金融と経済のしくみに関する教育を強化した政策の推進を求めます。
政府が掲げる金融資産の半分を占める現預金が投資に向かい、企業価値向上の恩恵が家計に還元されることで更なる投資や消費に向かう「成長と分配の好循環」を実現することは重要なことであると理解しています。また、資産運用は株式や暗号資産によって大きな利益を見込むことができます。しかし、過度な資産運用への誘導は高齢者や若年層など脆弱な「投資に向かない層」に不適切なリスクを取らせる傾向があります。さらに過度な資産運用の結果、個人や家計景気や市場の変動により、生活が不安定になる恐れがあります。よって、過度な資産運用への誘導の是正を求めます。
また、それに伴う中立的な金融教育の強化を求めます。国際的にみても、OECDやIMFは「金融教育の強化は投資促進よりも優先されるべき」という立場をとっています。多くの先進国では学校教育の段階から金融リテラシー教育が制度化されています。日本においては貯金文化が根強く、投資への教育が遅れてきました。現在の「貯蓄から投資へ」という流れの中でそれに追いつく形で金融教育がなされていない現状があります。そのため、「販売者優位」の取引が横行する危険性があります。よって、そのような被害を防ぐため、中立的な金融教育の強化を求めます。
34.日本政策金融公庫、信用保証協会等の政府系金融機関と商工団体等支援機関との相互交流及び連携強化を求めます。
政府系金融機関である日本政策金融公庫や信用保証協会は、民間金融機関が扱いづらい事案(創業融資、セーフティネット貸付等)を支援するという大きな役割があります。小規模事業者等に寄り添っている商工団体や会計事務所は、小規模事業者等の財務や事業活動への指導やアドバイスを行うことによって事業の継続や発展に寄与しています。
しかしながら、民間金融機関では認められている面談時の同席や説明を、政府系金融機関は認めていません。以前は、融資のあっせん屋の排除という時代があったのは認識していますが、経済産業省の認定支援機関制度の創設等、事業者が外部の支援機関に経営について支援を依頼することは日常的になっています。事業者の求めにより面談時の同席と支援者による事業計画や財務報告の説明を認め事業者へのよりよい支援環境の整備へ舵を切ることを強く求めます。
35.経営者保証を不要とする融資の周知、拡大を求めます。
事業性や財務内容を評価し経営者保証を不要とする事業性融資には「事業承継において、後継者が抱える不安の軽減」、「事業者の成長意欲が増し、赤字企業の減少や優良企業の増加を促す」、「スタートアップ企業が育ちにくい要因の解消」などの多くのメリットがあります。
当団体の会員アンケートでは、法人の61.6%(代表者が60歳以上の法人では47.3%)が後継者不在という結果が出ております。小規模事業者等の廃業を防ぎ、日本経済を支える小規模事業者等を増やすためにも事業性融資の拡大は不可欠と考えます。また、過度な節税による赤字企業が存在する中で、企業を健全な財務状態に導くことが重要と捉えています。そこで、政府より金融機関に対し、「事業者との面談を通じてすべての事業者に対する制度の紹介」、「保証人を不要とすることで貸付金利を上げるなど、保証人の設定を条件とする融資に誘引することを控える」、「無保証人による融資実行に向けた経営指標の目標値の明示など具体的な説明の実施」など指導の徹底を求めます。
36.金融機関の各種手続きにおける必要とされる公的証明書の有効期限の統一を求めます。
金融機関による相続時の各種手続きの有効期限について統一することを求めます。また、法定相続情報証明制度を活用した手続きの迅速化を図ることも合わせて求めます。
37.スタートアップ企業・法人格なき社団の口座開設の審査基準の緩和を求めます。
スタートアップ企業・法人格なき社団の口座開設が難しい状況となっています。2018年以降金融庁が進めているマネーロンダリング対策の影響によるものと思われます。
結果的に2023年度のゆうちょ銀行だけでも約4,000件もの法人格なき社団の口座開設の申請が断られたとの新聞報道があります。多くの団体にとって口座が開設できないことによる資金面の管理で大きな負担を強いられています。
それらを防ぐため、口座開設審査基準の緩和を望みます。
38.海外からの事業収入が受金出来るよう早急な対応を強く求めます。
現在の金融機関の対応ではスタートアップ企業の海外受金口座を開設することが出来ません。マネーロンダリングの防止は非常に重要な課題であることは承知していますが、事業が順調に進む一方で金融機関の受入口座が開設できません。必要とされた書類は全て提出し面談を受けても「今回は見合わせます」という回答で開設することが出来ない事例が存在します。このような現状であることを認識いただき、金融行政において海外からの受金に関する規制の在り方や方法を検討し、火急に対応いただきますようお願いいたします。
Ⅵ.デジタル化に関する要望
国民一人ひとりが時間的余裕と生活の質を実感できる「みんなを幸せにする」デジタル社会の構築と小規模事業者等のデジタル化推進を目指し、以下の7項目の実現を要望いたします。
39.国民の時間価値と生活の質の向上を目指した“ 全面オンライン行政” への転換を求めます。
現代の日本において、行政手続きのための窓口訪問は国民の生活リズムに大きな支障を与えています。特に、仕事や育児、介護などを抱える人々にとって、移動や待ち時間は貴重な時間の損失であり、地方自治体の行政手続きだけで年間約3,760万時間もの時間が浪費されているという推計もあります。この国民的な課題を解決するため、行政手続きのオンライン化を「デフォルト(基本)」とし、全国一律で24時間いつでもどこでも完結できる仕組みの構築を求めます。
40.行政のデジタル遂行能力を抜本的に強化する“人材育成と組織変革”を求めます。
どんなに優れた計画やシステムも、それを使いこなし、改善していく「人」と「組織」がなければ形骸化します。現在の行政、特に地方自治体では、デジタル化を推進するための専門人材が圧倒的に不足し、硬直的な組織文化が迅速なサービス改善を妨げる大きな壁となっています。この根本問題を解決するため、国によるデジタル人材の育成・派遣や職員研修といった基本的な取り組みは不可欠です。しかし、変革をさらに加速させるためには、より踏み込んだ方策が必要です。
具体的には、以下の2つの方策を要望します。
① 成功モデルの迅速な横展開:特定の自治体で成功した優れたデジタルサービス(例:子育て支援アプリ、ごみ収集日通知サービス等)を、国が「標準モデル」として認定し、他の自治体が安価かつ迅速に導入できる仕組みを構築する。これにより「車輪の再発明」を防ぎ、開発コストと時間を劇的に削減します。
② 首長のリーダーシップを引き出す仕組み:各自治体のDX達成度を客観的な指標で可視化・公表し、優れた取り組みを行う自治体には地方交付税の算定で優遇するなど、明確なインセンティブを与える。これにより、首長や幹部の当事者意識を高め、トップダウンでの組織変革を促します。
41.利用者目線を重視した“ デジタル・サポート体制” と世代間における公平性の確立を求めます。
行政のデジタル化は、単に技術を導入するだけでは達成できません。デジタル機器の利用に不慣れな人々が取り残されれば、行政サービスの利用率が低下し、社会的な機会損失につながることは、各種調査でも指摘されています。全ての国民が安心してデジタル化の恩恵を受けられるよう、「自治体単位のデジタル・サポートセンター」の設置を義務化し、対面、チャット、電話による多角的な支援体制の構築を求めます。
42.“ 共通データ基盤” による行政の統合と市民からの信頼の醸成を求めます。
各省庁や自治体が個別に管理するデータを連携させ、一度入力した情報は二度と入力不要とする「ワンスオンリー」を実現する共通データ基盤の構築を求めます。これにより、住民と行政職員双方の負担を抜本的に軽減します。同時に、自分の個人情報に「誰が」「いつ」「何の目的で」アクセスしたのかを本人がいつでも確認できる透明性の高い仕組みを法的に担保し、国民が行政を信頼できる統合データ環境の整備を求めます。
43.小規模事業者等の経営を効率化する“ ビジネス向け統合オンラインポータル”の創設を求めます。
小規模事業者等は、社会保険、税務、許認可、補助金申請など、省庁や機関ごとに縦割りになった複雑な行政手続きに、経営者の貴重な時間と労力を奪われています。これは事業者の生産性を著しく阻害しており、日本経済全体の足かせとなっています。この課題を解決するため、あらゆる行政手続きをワンストップで完結できる「ビジネス向け統合オンラインポータル」の創設を主導すべきです。ポータルではAIを活用して最適な補助金を通知する「プッシュ型支援」も実装し、事業者が煩雑な事務作業から解放され、本業に集中できる環境の整備を求めます。
44.小規模事業者等向け「簡易DXモデル」の策定・提供を求めます。
DX化に失敗した場合、2025年以降、日本経済に最大12兆円の損失が見込まれています。小規模事業者等は初期投資や費用対効果への不安からデジタル化に踏み出せずにいます。そこで、国が主導して「スモールスタートDXモデル」をパッケージ化して提供し、導入への心理的・経済的ハードルを引き下げることが必要です。これにより、小規模事業者等は安心してDXに取り組むことができ、初期費用の無償化やライセンス料の補助といった支援も可能となります。こうした制度的枠組みの整備を求めます。
45.DX人材マッチング支援の強化を求めます。
DXの推進には、専門的なデジタル人材の確保が不可欠です。しかし、小規模事業者等は大企業と比較して採用競争で不利な立場にあります。そこで、国がハローワークのような公的なデジタル人材マッチングプラットフォームを構築し、企業と人材の適切なマッチングを支援する体制を整えることを求めます。また、海外ではAndelaやGlintsのような専門プラットフォームが導入に成功しており、これらを参考に日本でも効果的な人材流動促進策を構築することを求めます。
Ⅶ.その他事項に関する要望
46.相続時における被相続人保有の郵便貯金について死亡解約の現金引き渡しから相続人保有の銀行口座への直接振込システムの構築を求めます。
現状、被相続人が郵便局に保有する貯金については、被相続人が死亡した後、相続人が総合口座を保有していない場合はいったん解約がなされ、相続人に対し、現金で渡すことになっています。これは、相続人にとって現金の搬送リスクが高く、犯罪に見舞われる可能性もあるため、相続時に限っては相続人が保有する銀行口座に上限なく振り込む手続きを構築することを求めます。
47.建設業許可申請における確認書類を7年へ短縮することを求めます。
現在、建設業許可申請の際、専任技術者の資格確認において10年以上の実務経験を有する要件にて申請する場合、実務経験証明書に記載した期間(10年間)の契約書類(工事請負契約書・注文書・工事代金請求書等)及び入金確認書類(預貯金通帳写し等)の提出が必要となっています。所得税・法人税等の書類保管義務が最大7年でもあり10年間の保存が難しい状況です。県における建設業許可申請確認書類を7年に短縮することを求めます。
48.建設業許可通知書等の送付について、委任状による委任者への送付を求めます。
現在、建設業許可申請の承認によって建設業許可通知書及び申請書控えを都道府県より申請者へ送付を行っていますが、委任状による委任者への送付が認められない都道府県があります。
全国統一して、委任者への送付が行われることを求めます。
49.戸籍広域交付制度の利用において、郵送手続き及び資格者代理人による請求が行える制度緩和措置を求めます。
戸籍広域交付制度は、令和6年3月1日から本籍地以外の市区町村の窓口でも戸籍などを請求できるようになりましたが、同制度を利用して請求できるのは本人に限定されており、本人が直接市区町村の戸籍窓口へ出向いて請求する必要があります。
国民の利用改善のため、郵送手続き及び弁護士、司法書士、行政書士等資格者への委任による交付請求手続きの緩和措置を求めます。
50.測量業の登録業者減少に伴う改革改善を強く求めます。
相続登記が義務化されましたが、地方の方では登記が50 年間放置され、孫ひ孫の世代まで登記を経ずに相続が進んでしまうケースが多くなっています。測量業務が必要になるケースが多くあり、測量士の不足が深刻な状況にあります。
測量業における登録業者数については、平成15年度末(14,750業者)をピークに19年連続で減少が続いており、令和5年度現在11,497業者となっております。少子高齢化の影響や公共工事の減少により、廃業が増加している現状ですが、国内において必要不可欠な業務であり、登録業者の増加につながる制度改革を求めます。
51.再生可能エネルギーの利用を制御することのない対策、実施を求めます。
太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーを利用した発電は、天候に左右されやすく不安定な発電エネルギーであることは承知するところであります。しかしながら既にある発電能力すら制御している状況と聞きます。安定供給の観点から再生可能エネルギーの最大限の利用について難しい問題もあるとは思いますが、再生可能エネルギーを制御することのない対策の検討、実施を求めます。
52.最低賃金引上げに伴う小規模事業者等への助成措置の拡充対応を求めます。
今後10年で最低賃金を現状の1,000円から1,500円に引き上げを目指すとされています。働く者にとって当然歓迎されるべき流れですが、小規模事業者等にとって厳しい引上げ幅となっています。特に地方の事業者では雇用維持が難しくなり、解雇や廃業という選択を迫られる事業者が多く発生することが見込まれています。現状では、最低賃金引上げに伴い、賃金を一定の条件措置した事業者には助成金が支給されていますが、大半の事業者には支給されていません。
引き上げ困難な小規模事業者等への対応策として次の3点を要望します。
① 人件費増に伴う価格転嫁の現状施策をより強力に推進するために、業務改善助成金等各種支援施策を強化すること
② 賃金引上げ幅に応じた、社会保険・労働保険料の減免措置を実施すること
③ 最低賃金改定実施時期を秋から翌年4月に変更すること
*障害:「障害」という言葉が持つ否定的な印象に対する配慮の必要性を認識しています。そのため、状況に応じて「障がい」などの代替表記を使用することもあります。しかし、本要望書においては、標準的な表記である「障害」を使用することといたします。
